No.96
タイトル
木を植えた男
(原題)
DER MANN MIT DEN BAUMEN
監督
ヴェルナー・クプニイ
キャスト
アンナ・ルートヴィッヒ、フェルディナンド・デュー他
制作
1988年/ドイツ
ジャンル ドラマ
上映時間
80分
評価
★★
<ストーリー>
物語はドイツで小さな工房を営む老人の回想から始まる。老人は若いとき、旅の途中で羊飼いの男に助けられた事があった。その男は羊を飼って暮らしていた。そして荒廃したこの土地に緑を呼び戻そうと、樫の木の実を少しずつ植えていくという気の遠くなるような作業を続けていた.....。

<コメント>
カナダのアニメーション作家、フレデリック・バックが製作したジャン・ジオノ原作の同名作品の実写版。前年に作られたアニメーション作品は1987年のアカデミー短編賞(アニメ部門)を受賞しました。実写版は少し脚本に手が加えられたようです。

個人的に思っていることの一つに「変化というものは、それ自体はほんの小さなものだ」というのがあります。ベルリンの壁の崩壊にしろ何にしろ、結果的には大きな事象として我々の目に映りますが、はじまりはほんの小さな変化であって、それが積み重なって大きな変化になると。この作品のストーリーもまさにそうです。荒れ果てた土地に育つかどうかもわからない苗木を植え続ける男。その小さくて脆い行為がやがて大きな変化をもたらすのです。人間一人に出来ることとは、そんなにたいしたことはないのだと思います。例えば自然の持つ強大な力と比べればそれは一目瞭然です。
そしてもう一つ思うのは続けるということの凄さ。ここで言う”凄さ”とは、小さな行為でも続けることによってとてつもなく大きな力になるというポジティブな面だけではなく、一つ間違えば凄惨とも言える面を持っているという意味も含んでいます。例えば陶器でもなんでも良いのですが、素晴らしい作品を大量に作り続けることが出来る人は確かに凄いと言えるでしょう。しかし、「俺はこの作品一つ作るのに人生すべてを費やした」という方がもっと凄い。それは作品の良し悪し等の判断基準を超えた凄まじさ。人間としての生き方、姿勢の問題です。
この作品はそんな人間の力強さ、素晴らしさをストレートに伝えてくれます。男が誰にも賞賛されず、陽の目を見ることなく静かに去っていくあたりも胸を打ちます。一人の人間の想いと信念が世界を変えた、私たちの胸をわしづかみにするにはそれだけで十分です。

ただ、アニメ版と比べてしまうとどうしても物足りなさを感じてしまいます。アニメ版はフレデリック・バックの幻想的で独特の色使いによって描かれた絵がふんわりとした優しい雰囲気をかもし出し、それでいて自己犠牲の素晴らしさや継続することの力強さを超えた、人間の”業”みたいなものを感じる事が出来ました。しかし、映画では木を植える男のキャラクターが今ひとつ弱く、スケール感にも乏しい気がします。したがって、挿入される語りも説明っぽく聞こえ、手を加えた脚本もストーリーを盛り上げるのには役に立たず、逆に冗長になってしまっています。また、冒頭主人公の女の子が遭遇する事故や周囲の登場人物の対応等がいかにも作り物っぽく、早々と興ざめしてしまいました。子供向けに作られた安手のドラマといった感じです。

しかし、かわいい孫娘を登場させたり、カメラワークに凝った風景描写があったり、工夫が感じられる部分もありますし、何より心に響くストーリーはいろんな事を考えるきっかけになるでしょう。
この作品のビデオは日本国内では吹き替え版しか発売されていないようですので、どちらかと言えば『フレデリック・バック作品集』のDVDで見るのがオススメです。

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