No.211
タイトル
百貨店大百科
(原題)
RIENS DU TOUT
監督
セドリック・クラピッシュ
キャスト
ファブリス・ルキーニ、ジャン=ピエール・ダルッサン、ナタリー・リシャール他
制作
1992年/フランス
ジャンル ドラマ
上映時間
95分
評価
★★★
<ストーリー>
今年100周年を迎えるパリの名門百貨店”グラン・ギャラリー”は華やかな表舞台とは裏腹に経営危機で倒産寸前。建て直しを任された熱血新社長ルプチ(ファブリス・ルキーニ)はさっそく店を視察するが、経営のズサンさもさることながら、社員同士の人間関係も勤務態度も超最悪。そこで彼は社員教育のためにさまざまな奇策を講じるが.....。

<コメント>
『猫が行方不明』(1996)が日本でもヒット、最新作『スパニッシュ・アパートメント』(2002)も好評のフランスのセドリック・クラピッシュ監督が、1992年に撮った長編デビュー作。名門だけれど業績不振にあえぐ百貨店を舞台にした群像劇。笑えるところも多いという意味ではコメディと言えなくもないですが、フランス映画らしく結構シニカルな視点もあるところが興味深いです。
人々の喧騒が挿入されたオープニング以降、短い挿話が積み重ねられる演出でめまぐるしく物語は展開していきます。社長以外は特に主要な登場人物というのは見当たりませんが、逆に言うとすべての人の人生に焦点が当てられています。登場人物のキャラクターには結構エキセントリックな設定もあるのですが、これだけ多くの人を描きながら、きっちりと個々のエピソードにリアリティが感じられるのは、ドキュメンタリー・タッチの映像の仕業だけではないでしょう。
私は信号待ちをしているときや電車に乗っているとき等に、街行く人をぼんやりと眺めるのが好きです。自分も含めてこの世の中に生きる人みんなが、それぞれに楽しいことやつらいことを抱えながらも、自分と同じ時間、空間を生きていることを確かめることによって、ある種の”生きている感”みたいなものを感じられるからです。本作でもそれぞれの登場人物を追っているうちにそういう感覚が呼び起こされました。
とは言え、ただ単に人物描写だけでは映画として面白くはなりません。それだけなら街に出た方がよっぽど面白い。本作は百貨店の建て直しという、個人と組織の相互関連の問題をベースに、滑稽な企画やイベントを絡めて最後まで飽きずに見られます。

出演している俳優ではやはり再建を命じられた社長を演じるファブリス・ルキーニが良いですね。この人物のキャラクターがこの作品のテイストに大きく影響すると思うのですが、軽すぎず、重すぎず、いいところを付いていると思います。働いている人間にとって、単なる建物でもあり、憎むべき場所であり、生活の糧でもあり、人生の舞台の一部でもある百貨店。さまざまな人々の生き様が交錯する、そこはまるで大きな駅のようです。私たち一人一人の人生が先行き不透明なのと同じようにデパートの行く末も誰にもわからない。ただ、ひとつ確実なのは、デパートがどうなろうと、そこに関わっていた人々の人生は途切れることなくこれからも続くという事。
予定調和的に結束するでもなく、徹底的に崩壊するでもなく、どちらかと言えばいつも厳しい方に傾いている”現実”というものに向かい合い、格闘する、大人のための寓話。フランス映画らしいペーソスあふれる小品です。

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