No.95
タイトル
ジャーニー・オブ・ホープ
(原題)
JOURNEY OF HOPE
監督
クサヴァー・コラー
キャスト
ネグメットゥン・シバノグル、ヌル・シュレール、エミン・シヴァス他
制作
1990年/スイス
ジャンル ドラマ
上映時間
112分
評価
★★★
<ストーリー>
トルコ東南の山間部にある貧しい村。ハイダールは美しい妻と7人の子供たち、年老いた両親と暮らしていた。ある日、スイスに亡命した伯父から絵手紙が届く。「・・・仕事もある、ここは天国だ」。ハイダールは反対する妻や両親を説得し、牛馬や土地を売り払い、”希望の旅”の一歩を踏み出したのだが.....。

<コメント>
1990年度のアカデミー外国語映画賞を獲得した作品です。作品のベースになっているのは実際にあった密入国事件で、新聞記事を読んだコラー監督が自ら脚本を書き起こしたとのこと。
トルコの寒村、貧しい暮らしに我慢が出来なくなった一人の父親が、スイスに亡命した伯父から送られてきた一枚の絵葉書に希望を託し、家財や家畜を売り払って国外への脱出を企てます。妻や両親の反対を押し切ってでも”希望”にすがった男の、家族の結末を描いた物語。

冒頭、素朴で力強い生活の描写があり、ことさら貧しさだけを強調していないところに共感が持てました。荒れてはいるけれど、真っ向から向かい合うに値するスケールの大きな土地。微妙なバランスの中で共存している人間と自然。その対比の中で生きる彼らの営みからは崇高な美しささえ感じられました。しかし、安心して見ていられたのもここまで。夫婦と子供が旅に出てからはまさに苦難の連続。
演出は余計な装飾のないストレートなもの。ドキュメンタリーかと思う場面もしばしばあります(これには主人公の感情を抑えた演技も一役買っているでしょう)。その”作意の無さ感”が前面に出た映像が効果的で、終盤雪山をさまよう場面等、気温の低さが直に伝わってくるようで、じりじりと時間が長く感じられました。

一枚の絵葉書に書かれた事をすべて鵜呑みにして財産をすべて売り払ってしまうあたり、なかなか我々には現実的に受け止めにくい部分もあります。しかしやはりそれが事実なのでしょう。
彼らが法や危険を犯してでも故郷を離れ、都会に駆け込む理由として「希望」という言葉が使われていますが、ここで言う「希望」とは要するに物質的に豊かな暮らしです。現状が厳しければ厳しいほど輝きを増すこの言葉。なぜ貧しい国に生きる人々は不法労働者となるのか。そういう人々と共存して生きていくためにはどうすればよいのか。これはトルコの辺境にだけ起こった物語ではありません。日本にもブラジルやペルー等、様々な国から多くの人々が働きに来ています。彼らにとって我々の国は希望に満ち溢れた場所でしょうか。私たちは希望に満ち溢れた国民でしょうか。少なくともこの作品では都会に生きる人々が希望を持って生活しているとは思えません。それは私たちとて同じではないでしょうか。

<以下、ネタばれ注意!>
ストレートな問題提起と答えのない結末がかなり硬質な作品ですが、中でもラストシーンはやはり辛い。ビデオの説明書きには「美しい作品」「感動作」等の単語が並んでいますが、はっきりって嘘です。ここに提示されているのは私たちが向かい合わなければならない過酷な現実です。戻ってきてくれた運転手は一見良い人に見えます。しかしそれは私たちが彼と同じ先進国の人間だからかもしれません。運転手が一生懸命喋っても、結局主人公の口から出るのは無念を表す言葉ばかり。ここではさすがに「希望」という単語にも輝きはありません。そして運転手に対する感謝の言葉も出ない。個人のレベルではどうしようもない国家単位の溝が二人の間には横たわっていて、主人公は「友達になりたかった」と言うしか無く、そしてそれは決して実現することはありません。辛いけれどこれを受け止めなければ何も始まらないのです。

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