No.339
タイトル
南東から来た男
(原題)
Hombre Mirando AlSudeste
監督
エルセオ・スビエラ
脚本
エルセオ・スビエラ
キャスト
ロレンソ・キンテロス、ウゴ・ソト他
制作
1986年/アルゼンチン
ジャンル ドラマ
上映時間
107分
評価
★★★
<ストーリー>
ブエノスアイレスの片田舎にある精神病院。ある日医師のデニス(ロレンソ・キンテロス)の担当する32人の患者が33人になっていた。ランテース(ウゴ・ソト)と名乗るその男は自らを”地球に落ちてきたエイリアンだ”と言う。知能指数は以上に高く精神分析テストの結果も全て正常。実体が謎のまま、彼は救世主として他の患者たちや医師の心を次第に解放し共鳴していくが.....。

<コメント>
田舎の精神病院に勤めるデニスのもとに突然現れた青年ランテース。彼は自分が宇宙船で地球にやってきたと説明します。荒唐無稽な話ですが、彼の言動はその話以外すべてが正常。果たして彼は神か人間か?というストーリー。精神病院を舞台に謎の人物が騒動を巻き起こすシチュエーションというと、『カッコーの巣の上で』(1975)や『K−PAX』(2001)などが思い浮かびます。しかしながら、本作はアルゼンチン映画ということもあってか、独特の深みを感じさせますし、サックスによる音楽を補助線に、不思議な雰囲気を持った作品に仕上がっています。
主人公の医師・デニスは自分の職業や生き方に迷う非常に人間的な”弱さ”を持った人物。そこ現れた謎の人物ランテースが精神病患者と理解しあったり、彼らを救済したりする様子を目の当たりにすることにより、さらに困惑します。デニスとランテースの距離感の微妙さが上手く描かれていて面白いですね。静謐さを感じさせる映像もよいですが、圧巻は演奏会でランテースが突然指揮をする場面。人類の魂が響きあい、高揚感をあおります。自分自身が救済されるのはもちろん、他人が救済されることによって自分もまた救済される。

しかし、前述の2作もそうですが、こういった設定の作品は観た後に必ずある種の無常感というか、揺れを感じますね。何か、自分たちの常識を揺るがす存在に蓋をしてしまったような、罪悪感のようなもの。デニスのみならず、実は私たちは本当に救世主のようなものを心の奥底で求めているのかもしれません。本作でも、デニスがランテースの超能力を目の当たりしていたら、すぐに彼を救世主と認め、とりこまれてしまったのではないでしょうか。常識というものの外にある言動や圧倒的な価値観は、私たちの中にある”正しさ”というものの危うさを浮き彫りにします。ランテースがいなくなりデニスに平穏な日々が戻ってきたかというと決してそうではないでしょう。きっと彼は毎日南東に向かって立っている気がしてなりません。

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