No.66
タイトル
哀愁のエレーニ
(原題)
ELENI
監督
ピータ・イエーツ
キャスト
ケイト・ネリガン、ジョン・マルコヴィッチ、リンダ・ハント他 
制作
1985年/アメリカ
ジャンル ドラマ
上映時間
118分
評価
★★★★
<ストーリー>
戦時下のギリシャで幼少時代を過ごしたニコラ(ジョン・マルコヴィッチ)。現在はNYタイムズの記者として忙しい毎日を送っているが、彼の頭の中には戦時下に処刑された母親への想いがこびり付いている。結婚して子供にも恵まれたが、過去にこだわる彼を良く思わない妻とはなんとなくうまく行かない日々が続く。そんなある日、かねてからの希望通りニコラに故郷ギリシャへの転勤辞令が出る。妻との確執を抱えたまま赴任した彼は処刑された母親の最後の言葉と事件の真相を求め調査を始める......。

<コメント>
監督はピーター・イエーツ。スティーヴ・マックィーン主演のアクション大作『ブリット』(1968)や『ヤング・ゼネレーション』(1979)等で知られるベテラン監督です。脚本を手がけたのはスティーヴ・テシックで、前述の『ヤング・ゼネレーション』ではアカデミー賞脚本賞に輝きました。
第2次世界大戦下に処刑された母親の事件の真相と彼女が残したであろう”最後の言葉”を求めて調査を続ける男のドラマをサスペンス・タッチで描いた作品です。

物語は主人公のニコラが調査を進めていく場面と戦争当時の状況とが絡み合いながら進んで行きます。そう聞くと一瞬複雑に思えるかもしれませんが、監督のテンポの良い演出のおかげで話は混乱すること無くスムーズに進行します。むしろこういった進行により、主人公ニコラとともにわれわれも当時の様子を追体験するかのようです。
舞台となるギリシャも含めた東欧は最近もコソボ問題が勃発する等、とにかく太古から様々な民族が入れ替わり立ち代り侵略・建国・破壊を繰り返してきた土地で、われわれ日本人にはなかなか理解しがたい政治状況です(私の理解が足りないだけかもしれませんが)。ちょうど先日ニコラス・ケイジ主演の『コレリ大尉のマンドリン』(2001)を観たところだったのですが、こちらは第2次大戦中のドイツ・イタリアの占領下のケファロニア島が舞台となっており、ここでも島民たちが悲惨な生活を強いられる現状が描かれていたのでなおさらそう感じました(ちなみにこちらの作品ではさらに大地震という自然災害も重なってきますが、作品自体は恋愛物語を絡めた甘さが鼻につくもののそれなりに爽やかな後味でした)。したがって、主人公ニコラの故郷に対する気持ちや戦犯に対する怨念のような感情は、すべて理解することは難しいかもしれません。しかし母親と子供を繋ぐ愛情は民族や国家が違えども普遍的なものであると思いますし、そういうメッセージは痛いほど伝わってきます。

出演者はみんなそれぞれにしっかりした演技を披露してくれますが、中でもやはりニコラ役のジョン・マルコヴィッチと母親役のケイト・ネリガンが素晴らしいですね。マルコビッチは比較的感情を抑えた演技ですが、内に秘めた芯の強さは十分伝わってきます。ラストの描き方がちょっと弱い気がしたのですが、それでも彼の演技で乗り切ります。母親役のケイト・ネリガンは序盤はごく普通の母親なのですが、物語が進むに連れ、過去の伝統に抗ってでも子供たちを守り抜くという信念が目に宿りだし、圧倒的な存在感を見せます。過酷な状況下こそ、その人の人間としての真価が問われるところだと思いますが、果たして自分が彼女のように行動できるかどうかというと、とても自信はありません。
われわれ現代人(特に日本人)には”叫び”を通してまで伝えたい感情や価値あるものというのはほとんどなくなってしまったような気がしますが(叫ぶのは犯罪に遭った時やジェット・コースターに乗った時ぐらいではないでしょうか)、終盤エレーニが大空に向かって子供たちへのメッセージを解き放つ時、その言葉は空を突き抜け、国境や歴史や言葉を越えて私たちの胸にまっすぐ突き刺さります。ニコラが最後に感じた母から受け継いだもの、それこそが今もう一度見つめ直す価値のあるものではないでしょうか。

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