No.182
タイトル
チャンス
(原題)
BEING THERE
監督
ハル・アシュビー
キャスト
ピーター・セラーズ、シャーリー・マクレーン、メルヴィン・ダグラス他
制作
1979年/アメリカ
ジャンル ドラマ
上映時間
130分
評価
★★★
<ストーリー>
数十年間、ひたすら庭の手入れをしながらテレビだけを楽しみに生きてきた庭師チャンス(ピーター・セラーズ)。彼は主人の突然の死をきっかけに外界に飛び出すことになる。読み書きは出来ず、生い立ちすらわからないチャンスだったが、ひょんな事から政治をも左右する経済界の大物と出会う。そこから彼の運命は一変する.....。

<コメント>
1970年代に『さらば冬のかもめ』(1973)、「シャンプー』(1975)等の名作を世に送り出した名匠ハル・アシュビー監督の作品。全く世間知らずの庭師・チャンスがその純粋で無垢な精神性ゆえにカリスマに祭り上げられていく様をシニカルに描いています。
学歴も才能も無く、テレビばかり見ていて頭が空っぽのチャンスの言葉に、政財界の大物達のみならず、マス・メディアを通して社会全体が翻弄される様が面白いです。ストーリー的には多少無理もありますが、それでも、彼の季節の移り変わりを重んじる発言には、日本人なら素直に共感できるはず。しかし、この作品、単純に自虐的に笑ってばかりいられない恐ろしさを感じさせます。悩める人間や病気の人間に対して、チャンスが放つ子供のようなストレートな発言はなんともうすら怖い。また、チャンスがとにかくテレビという装置に固執し、画面に映る映像の通りに体を動かす様は、マス・メディアに操られる人間を表現しているとも取れますが、この辺りの演出も、笑いを通り越して不気味にさえ映ります。そもそも最初に主人が亡くなった時の淡々とした様子もロボットのようですしね。あまりにも人間の思惑が絡み合った社会では、みんなごく単純な倫理さえ忘れてしまいます。だからチャンスのように純真な人間の生き様が人々を感動させるのかもしれません。
ピーター・セラーズの感情を抑えた演技は素晴らしいと思いますが、『ピンクパンサー』シリーズのクルーゾー警部のぶっ飛び演技で彼を知った身としては、やはりもう少し普通に笑える部分があっても良かったのに、と思います。もちろんピーター・セラーズの代表作であることには間違いないと思いますが。そう言えばシャーリーン・マクレーンの熱演も見ものですので、お忘れなく。
ちなみに『シネマ・ポリティカ』の粉川哲夫氏によると、エンドロールのバックに流れるNG集は、チャンスの喋る英語がテレビから学んだいかにナマの英語と異質なものであるか、そしてそんな人工的な英語をピーター・セラーズがいかに天才的な演技で表現しているか、を表しているとの事です。深い。
ピーター・セラーズは本作で1979年度アカデミー賞・主演男優賞にノミネート、経済界の大物役を演じたメルヴィン・ダグラスは助演男優賞を受賞しました。

<以下、ネタばれ注意!>
チャンスが湖上を歩くラストシーンは賛否分かれるところかもしれません。ほとんど神格化してしまった彼を象徴しているのか、言葉によって形を変えてしまう社会は幻のようなものだということなのか。いずれにしても、少しやりすぎの感じがしました。枯れた映像そのものが非常に美しいだけに残念。

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