『ビデオの理由(2)』

昔、NHKで放送されていたアメリカの人気テレビ番組『刑事コロンボ』。最初から誰が犯人かはわかっていて、謎解きのプロセスを楽しむという設定が衝撃的でした。シリーズの中では『二枚のドガの絵』『別れのワイン』等の作品が一般的には人気ですが、私が印象に残っているのは『忘れられたスター』という作品。
まだご覧になったことの無い方は、以下、ネタばれになりますのでご注意!

この作品は、往年の大女優(ジャネット・リーが演じています)が、自分のカムバックを邪魔する夫を殺害するというストーリーです。夫がカムバックを阻止するのには理由があって、彼女は老齢のためか、昔の記憶は覚えていても新しいことを記憶できないという病気を患っていたのです。それを知らない、というか知らされていない彼女は殺害を実行。で、もちろんコロンボの推理によって彼女が犯人であることが判明するのですが、本作ではコロンボが殺人の経緯を解き明かす相手は彼女の旧友で、彼女本人ではありません。そして最後は、おそらく夫を殺したことさえすでに覚えていないであろう彼女が、自宅にある映写室で自分が全盛期のころに出演した映画のフィルムを見ているシーンで幕を閉じます。真実をよそに華やかな過去の自分に酔いしれ、目を輝かせる彼女の表情がなんとも印象的でした。
人はやがて身体も動かなくなるし、頭も働かなくなります。もっと言うならばみんな最後には死ぬわけです。そんなとき、私たちを支えてくれるのは、一体何なのでしょうか。それはまわりにいる家族かもしれないし、友人かもしれない。しかし、自分の記憶にある素晴らしい思い出は、まさに自分が生きた証であり、あらためて心をくぐらせる価値のあるものであることに間違いありません。過去の体験を思い出して感傷に浸るというと少し後ろ向きな感じがしますし、あまりに固執するのもよくないかもしれません。それでも他の誰でもない自分が経験した感情をあらためて愛でるということは、死の間際でなくても誰もが体験する素敵な時間であると思います。
昔、劇場で見た思い入れたっぷりの映画をあらためてビデオ見ると、当時のシチュエーションや季節や心情も同時に思い出させてくれます。それは小さいころに親に手を引かれて連れて行ってもらった映画かもしれないし、大好きな恋人と最初に見た映画かもしれないし、どうしようもなく落ち込んだ時に励ましてくれた映画かもしれない。
自分の好きな映画のビデオを買ったりDVDを買ったりするのも、きっとそういう気持ちがあるからではないかと思います。
ということで、今年も良きビデオライフのお役に立てるようがんばります。

ちなみに『忘れられたスター』はシリーズ中、コロンボが犯人を逮捕しない唯一の作品です。謎解きとしてはシリーズの中でも平均的な出来ですが、ラストはもう一ひねりされているのでぜひご覧ください。

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