『ハリウッドはなぜ?』

般、フレッド・ジンネマン監督のサスペンス大作『ジャッカルの日』をご紹介しましたが、「で、アカデミー賞を獲ったの?」というご質問をいただきました。
本作に関しては、このメルマガ上では絶賛したのですが、実はアカデミー賞では編集賞にノミネートされただけなんですよね。
そんな折、タイミングよく赤木昭夫さん著『ハリウッドはなぜ強いか』という新書を見つけました。これはアカデミー賞の設立経緯から製作システムの昨今、利益構造の分析等、いろんな視点から壮大なショウ・ビジネス界の舞台裏を垣間見せてくれる興味深い本です。
でもって、設立の経緯を少し引用させていただくと、アカデミー賞を与えるのは「アカデミー・オブ・モーションピクチャー・アーツ・アンド・サイエンス」という民間団体で、もともとは1920年代にハリウッドを襲ったスキャンダルを覆い隠し、イメージアップを図るために設立されたらしいです。”アカデミー”と命名したのも、いかにも権威を象徴する呼称が欲しかったからだと説明されています。アカデミーの胡散臭さはそれだけにとどまらず、ハリウッドが現在までに迎えたさらに2つの危機、一つはテレビの台頭、もう一つは人種差別に対する批判、そういった危機に直面するたびに、前者の場合は『ベン・ハー』『アラビアのロレンス』等のテレビでは太刀打ちできない大型スペクタクル巨編に賞を与え、後者の場合は主演男優・女優賞をいずれも黒人俳優に与える(2002年のデンゼル・ワシントンとハル・ベリーのことですね)ことによって、危機回避の役割を”演じて”きたとのことです。
うーん、まあアカデミー賞を持ち出すまでもなく、世の中で”賞”と名のつくものは多かれ少なかれそういった内部事情や不公平さを抱えているものだと思っているので、特に驚きはありませんが。
いずれにしても、そういう構造に支配されている以上、常に素晴らしい作品がノミネートされたり、選ばれたりするということではないのは確かなんでしょうね。『ジャッカルの日』も実際に受賞に値する作品かどうかは別にして、作品賞とか監督賞にノミネートぐらいされてもいいのになー。
社会学なんかでは行き過ぎた”権威”は”権力”に変わるといいます。さらにこの本によるとアカデミー賞を受賞するかどうかでその後の作品の興行収入に多大な影響があるそうです。中にはアカデミー賞受賞作の受賞前と受賞後の入場料収入の比較データなんかも載っていて面白いですよ。
内側の人々の思惑によって賞を与えられる作品、そして偽の権威に裏付けられた作品を常に素晴らしい作品と勘違いして喜んでみる観衆。アカデミー賞の授賞式を欲にまみれた人間たちが繰り広げる波乱万丈のドラマとして楽しむならそれもあり、かも。

・『ハリウッドはなぜ強いか』(赤木昭夫/ちくま新書)

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