『作られる”恐怖”』

『スロー・イズ・ビューティフル』の著者である文化人類学者・辻信一さんの新刊『スローライフ100のキーワード』(弘文堂)を読みました。いつも通りの親しみ易い文章と、新たなる世界の主流になるであろう価値観にとても共感し、一気に読んでしまいました。”スロー”から派生するさまざまなキーワードとそれに関するコラム・説明が並べられた本作は、”辻信一・大辞典”とでも言うべき内容で、”スローライフ”を読み解く上での入門書にも専門書にもなり得る素晴らしい書籍だと思います。

その中に「恐怖/安心」というキーワードが出てくるのですが、そこで言及されているのはマイケル・ムーアが監督した映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』のこと。辻さんはおっしゃいます。「マイケル・ムーアの主眼は、アメリカがいかに銃の多い危険な場所かを描くことにあるのではない。映画のテーマは銃それ自体よりももっと危険なものの存在、恐怖についてだ。恐怖がいかにアメリカ人の心を捉え、その思想や行動を左右しているか。恐怖をうまく利用し、国家権力が国民をコントロールし、大企業が民衆を消費行動へと駆り立てる。この映画はこれらのことを教えてくれる」。まさにそう思いますね。
本来”恐怖”というものは目に見えないものやそれまでの常識では理解できないもの、に対して抱く感情ではないかと思いますが、今の世の中は”恐怖”をどんどん顕在化させたり、あるいは新たに作り出したりしているように思われます。”恐怖”を利用した制度は意外と私たちの日常にも数多く存在しますよね。例えば保険、中でも生命保険はかなり身近な存在といえるのではないでしょうか。将来の不安に対する備え、と言えば聞こえはいいですが、起こるかどうかすらわからない事態への保障に対して多額のお金を払い続けるのは、やはり恐怖の裏返しと言えると思います。目の前の恐怖が大きければ多いいほど、その恐怖を回避できたときの安心は大きいのかもしれませんが、恐怖や不安が人々の行動の理由になっているような社会なんて殺伐とせざるを得ないという気がしますね。将来に不安を抱くのではなく、今に満足すること。それが大事、で、それが難しい。でも、今に満足しようと思えば今あるものを潰したり、壊したりするよりも、活かしたり、利用したりする発想が出てくるのではないかと思います。
ちなみに以前、何かの文献にあったのですが、保険発祥の地はイギリスで、保険先進国といえばアメリカ。そして世界最大の保険契約高(アメリカの約1.6倍)を誇るのは日本らしいです。

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