No.92
タイトル
ザ・チャイルド
(原題)
WHO CAN KILL A CHILD?
監督
ナルシソ・イパニエス・セラドール
キャスト
ルイス・フィアンダー、プルネラ・ランサム、アントニオ・ランソ他
制作
1976年/スペイン
ジャンル ホラー
上映時間
112分
評価
★★★★
<ストーリー>
妊娠中の妻イブリンを連れ、スペイン沖の小島にやってきた生物学者のトム。二人は祭りの最中で賑やかな島を離れ、さらに小さな小島に移る。そこは静かで美しい島だが大人が誰もいなかった。不気味な雰囲気の中、やがてホテルにたどり着いた二人は、隠れ潜んでいた男から驚愕の事実を知らされる。.....。

<コメント>
スペインのナルシソ・イパニエス・セラドール監督の作品。スペインの美しい島に旅行に訪れた夫婦が、ある日突然殺人鬼と化してしまった子供たちに襲われる物語。邦題は『ザ・チャイルド』となっていますが、原題は『WHO CAN KILL A CHILD?』(=誰が子供たちを殺せると言うのか?)。これは作品における重要なキーワードとなっています(そういう意味では邦題の出来は今ひとつな気がしますね)。

普段は純真無垢な存在である子供たちが、何らかの力の作用によって豹変し大人を襲う、というとジョン・カーペンター監督のリメイクが話題を呼んだ『光る眼』(1995)や悪魔の子が主人公の『オーメン』(1976)、スティーヴン・キング原作の『キャリー』(1976)なんかを思い出しますね。また大人を敵とみなす物語ではありませんが、子供たちが内なる闘争心を目覚めさせ殺し合いを行う『蝿の王』(1990)なんていうのもありました。
しかしここに出てくる子供たちは、本当に何の変哲も無いあどけない笑顔を持った子供たちです。でもそれが逆に効果的で、話が進むうちにその笑顔がだんだん怖くなってきます。

前半はスペインの小島に旅行に訪れた夫婦が宿を探したり街を探索したりする場面ですが、そこでは祭りが行われており、とにかくうるさい。ひっきりなしに音楽が鳴り、爆竹が響き、子供たちが笑い、夜には花火も上がる。そして次の日に「もっと静かなところに行こう」とさらに小さな島に渡るのですが、そこからはとたんに爆竹も音楽も無し、ただ白い建物がそびえ静寂が広がるばかり。まずこの対比が見事。島には大人がいないことに気づき、誰かいないかと島の中を探し回る部分も、ともすればだれた展開になりがちですが、カメラワークや音響が効果的で緊張感が持続して飽きさせません。実際に子供たちと戦うシーン等では少し稚拙な感じの演出もありますが、当時は逆にリアリティがありました。終盤の少しSFっぽい展開も、十分怖いのでぎりぎり許容範囲。
子供たちの殺戮から偶然生き残った男が夫婦に言います、「誰が子供を殺せる?」。それはその男だけが持つ優しさではなく、もちろん夫婦も同じ、いえ、ほとんどの大人たちに共通する感情でしょう。しかし、この作品の冒頭に延々と流れていた過去の残虐な歴史を見せ付けられた後では、その言葉から感じるのは偽善以外の何ものでもありません。何が子供たちをそうさせたのかはわかりません。しかし数々の残虐な歴史が完全に”過去のもの”、と言い切れない状況が続く現代だからこそ”作り物だ”と一蹴できない説得力があります。果たしてこの作品がリアリティを失う日は来るのでしょうか。

<以下、ネタばれ注意!>
この監督はこの作品を含めて2作しか作っていないようですが、演出はうならせるものがありますね。”誰もいない”という不気味さを表す”黒焦げになったチキン”に”溶けたアイス”。二人が最初に目撃する殺人が杖による撲殺というのも(しかも女の子!)なんともショッキング。ホテルで出会う男の扱い方や島の反対側の家でのシーンもインパクトがあります。ホラーはあまり好きなジャンルではないですが、こういう秀作はたまに繰り返し見たくなりますね。やっぱり後味は悪いけれど。

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