No.465
タイトル
過去のない男
(原題)
THE MAN WITHOUT A PAST
監督
アキ・カウリスマキ
脚本
アキ・カウリスマキ
キャスト
マルック・ペルトラ、カティ・オウティネン他
制作
2002年/フィンランド、ドイツ、フランス
ジャンル ドラマ
上映時間
97分
評価
★★★★★

【 ストーリー 】
ある日、列車に揺られ、夜のヘルシンキに流れ着いた一人の男(マルック・ペルトラ)。辺りに誰もいない公園のベンチに座り、一休みしていたところ、突然、3人組の暴漢に襲われる。身体中を殴られ瀕死の重傷を負った男は、病院に担ぎ込まれる。奇跡的に意識を取り戻すが、自分の名前を含め、過去の記憶を全て失っていた...。

【 コメント 】
『マッチ工場の少女』(1990)、『浮き雲』(1996)など、小津安二郎的間合いが特徴の映像作家、アキ・カウリスマキ監督が、記憶を失った男を主人公に、人間の悲哀と希望を描いた作品。主演はマルック・ペルトラ。お相手役にはカウリスマキ作品に欠かせないカティ・オウティネンがキャスティング。ちなみにマルック・ペルトラ氏は荻上直子監督作品『かもめ食堂』(2006)にも出演されていましたが、2007年に亡くなられたそうです。残念。

暴漢に襲われたことによって、突然、過去の記憶をなくした男。自分が誰かすらわからない。通常ならパニックになるところですが、主人公の男はその状況を受け入れるかのように、淡々と過ごします。
主役が瀕死の重傷を負うほどの冒頭シーンでありながら、アキ・カウリスマキ監督の手にかかるとなぜかほんわかとしたムードになってしまい、どこか可笑しささえ感じられます。
すべての記憶を失った男が、周りの人たちに支えられながら、人間らしい生活を取り戻していく様子からは、物質的に貧しくても心の豊かさを失っていない、非常に人間的なコミュニティの優しさが感じられます。
コンテナ住まいでも、飯が食えて音楽が聴ければこんなに楽しい、みたいなノリも、カウリスマキ作品の持つ情緒にあふれています。作中、男の世話をした登場人物が語るように、人生は前にしか進みません。そして、前に進んでいればきっといいこともある。すべてのしがらみを断ち切られても、しっかり生きていけるだけのたくましさを我々は持っている、そんな人間賛歌が聞こえてきそうです。クレイジーケンバンドらによる音楽もいい。

ラスト、再度めぐり合った男と女が町に消えていくシーン、列車が目の前を通り過ぎて二人の姿が見えなくなります。キスシーンや抱擁シーンで終わらせなかったところに、カウリスマキ監督のリアリティを感じます。生きていればいいこともある、だけど現実は厳しい。それでもなお、生きていく、それが本当の強さということなのでしょう。

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