No.135
タイトル
泳ぐ人
(原題)
THE SWIMMER
監督
フランク・ペリー
キャスト
バート・ランカスター、マージ・チャンピオン、キム・ハンター他
制作
1968年/アメリカ
ジャンル ドラマ
上映時間
94分
評価
★★★
<ストーリー>
ある夏の午後、ネッド(バート・ランカスター)は水泳パンツで友人ダンの家にやってきた。前夜のパーティで疲れていた友人夫妻は、一緒に泳ごうというネッドの誘いを断る。昔はみな一緒に泳いだ仲だったのに、とやるせない気持ちになったネッドは、隣人たちのプール伝いに家に帰ろうとする.....。

<コメント>
アメリカ上流社会の倦怠と堕落を皮肉った映画なんですが、今見ると相当に変わった映画ですね。アメリカの現実を見据えたニュー・シネマにカテゴライズされるのだとは思いますが、ストーリーも変わっていて、いろんなところで破綻していますし、自然回帰的なモチーフやサイケっぽい映像が度々挿入され、何とも不思議なテイストになっています。これが60年代にはそんなに違和感なく(映画作品として)受け入れられていたとすると、当時がいかに混沌としていたかっていうことかもしれませんね。そういう意味では60年代らしい、という言い方も出来るかもしれませんが。
主人公は一見、体格もよくてハンサムですが、実に傷つきやすく自己中心的な脆い精神性を持っていて、それがゆえに、一緒に泳ぐのを友人夫妻に断られたことから、隣人たちのプール(=古きよき時代の思い出の場所)を辿って家に戻ろうとします。ところが彼にとっては思い出の場所でも、それはあくまでも主観的なものであって、他人の視点からの客観的な意見は彼にとって厳しいものでしかない。そこで、彼は自分が考えてきたこと、行ってきたことに疑問を抱かざるを得ない。
ストーリー的にはかなり奇抜ですが、自身の人生の道程を振り返りながら現実と直面していくという設定はなかなか面白いですね。ゴルフ・家・金・恋愛等々、登場人物たちの間に共通するもの、男と女をつなぐものは、物質的なものやゴシップ的なものばかり。で、最初はそういったエピソードからアメリカという国の上流階級の人々の空虚さがにじみ出て、主人公のようなよく言えば純粋な心を持った人間が安息できる世界ではないということが見えてくる。ところが、プールを渡り歩き(泳ぎ?)、主人公自身にまつわる過去のエピソードが絡んでくると、彼自身の利己的な人生が徐々に垣間見えてくる。すると、だんだん、彼の鍛え抜かれた身体や少年のような笑顔が、子供のまま大人になってしまった異形のものに思えてきて、非常に気味悪くなってきます。バート・ランカスターはある意味ハマリ役。冒頭のショットはいかにも自然に対する憧憬を感じさせますが、その実、動物はみな何かから逃げています。途中、馬と競争する場面も人間と自然を対等に描いているようですが、それがあまりにも直接的かつ、偽善的でこれまた吐き気がするほど気味悪い。
主人公自身の人間性や歴史がもう少し見えてくればもっと深みが出たのではないかと思いますが、それでも一応ラストシーンは破滅的でそれなりに美しく、個人的には『惑星ソラリス』(1972)を思い出してしまいました。もちろんこれには『追憶』(1973)や『スティング』(1973)のスコアで有名なマービン・ハムリッシュが手がけた音楽がかなり貢献しています。メロディ的にはジェリー・ゴールドスミスの『パピヨン』(1973)を思い出してしまいました。まあ、『惑星ソラリス』も『パピヨン』もこの作品より後の時代ですが。
後味は決して良くないけれど、空虚な人間社会の行き着く先を突いた作品ではあると思います。

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