No.62
タイトル
蜘蛛女のキス
(原題)
KISS OF THE SPIDER WOMAN
監督
ヘクトール・バベンコ
キャスト
ウィリアム・ハート、ラウル・ジュリア、ソニア・ブラガ他 
制作
1985年/ブラジル、アメリカ
ジャンル ドラマ
上映時間
119分
評価
★★★★★
<ストーリー>
ファシズムが台頭する南米のとある刑務所で、同じ官房に入れられている政治犯のバレンティン(ラウル・ジュリア)とホモセクシュアルのモリーナ(ウィリアム・ハート)。自分が見た映画の話を語り続けるモリーナを「現実逃避している」と毛嫌いしていたバレンティンだが、映画を通して語り合ううちにお互いを理解し合うようになる.......。


<コメント>
アルゼンチンの作家マヌエル・プイグの同名小説を映画化した作品。メガホンを取ったのは、同じくアルゼンチン出身のヘクトール・バベンコ監督。
南米の刑務所という閉鎖的な空間で繰り広げられる、政治犯とホモセクシュアルの2人の不条理な愛の物語です。

プイグのこの原作はベストセラーとなり、舞台でもたびたび上演されている人気の作品ですが、とにかくこの脚本が秀逸です。人間同士が心を開きお互いを理解しあうということはどういうことなのか、ということを存分に味合わせてくれます。主役の2人が置かれているのは刑務所という密閉された部屋(=出口の無い空間)という状況であり、不本意ながらも相手とうまくやり過ごさなければいけない、また、相手を理解しようと努力せざるを得ない部分もあるのは事実です(四六時中一緒にいるわけですからね)。しかし私は、お互いを尊敬しいたわる気持ちがあれば、状況に限らず理解し合えるものだという風にポジティブに受け止めています(もちろん理解し合えない、ということも”結果”としてはあると思いますが)。血気盛んな政治犯とロマンチストのホモセクシュアルという、一見何の接点も無い2人に見えますが、現実と理想のギャップに翻弄され、現実を変えようともがいている点では似たもの同士といえます。それでも理解すればするほど離れざるを得ないお互いの境遇が悲しくもドラマチックです。

それと特筆すべきはやはりアカデミー賞、カンヌ国際映画祭、LA批評家協会賞等の主演男優賞を総なめにしたウィリアム・ハートの演技でしょう。主役のモリーナが見せる”理解”から”愛情”へ移行する感情、自分が語る映画への慈しみ、映画のヒロインへの憧憬、そして生きる目的を見出せなという人生に対する苦悩、等々、複雑な心情の描写や揺らぎを情感たっぷりに伝えてくれます。彼(彼女?)の映画に対する愛着がひしひしと伝わってくるところが個人的にはとても気に入っています。また政治犯を演じるラウル・ジュリアもはまり役で良いです。一般的にメジャーという意味では『アダムス・ファミリー』(1991)のお父さん役の方が上かもしれませんが(もちろん、あれはあれで格好良かったですね)。革命に心血を注ぎながらも人間らしい弱さや優しさを併せ持つ男をリアリティを持って演じています(残念ながら彼は1995年に他界してしまいました)。

映画を気に入った方はぜひ原作を読んでください。映画は基本的に原作に忠実に作られているので、大きな流れは変わりませんが、どちらもそれぞれの切り口で切なくて味わい深い余韻を感じさせてくれます。また原作ではモリーナの口から6本の映画が語られますが、その中には実在するものもあります。ご興味のある方は集英社から出ている文庫本をご覧ください。訳者である野谷文昭氏の解説に詳しく記載されています。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送