No.93
タイトル
追憶の旅
(原題)
UNA GITA SCOLASTICA
監督
プピ・アヴァティ
キャスト
カルロ・デッレ・ピアーネ、ティツィアーナ・ピーニ他
制作
1983年/イタリア
ジャンル ドラマ
上映時間
89分
評価
★★★
<ストーリー>
銀行で不意の発作に見舞われた老女ラウラ。彼女は死の床に就きながら、人生で最も楽しかった思い出を回想する。それは1911年の春、高校生のときにクラス30人でボローニャからフィレンツェへと歩いた徒歩旅行。憧れの男子生徒との恋、引率の先生たちの恋。彼女は美しい風景と共に懐かしい青春時代を思い出していた.....。

<コメント>
”イタリアのトリュフォー"と評されることもあるプピ・アヴァティ監督の作品。
人生の終焉を迎えようとしている老女の甘く切ない若き日の思い出を描いたドラマです。

”思い出”と聞くといつも頭に浮かぶのが、ショート・ショートの大御所・星新一さんのとある作品。ずいぶん昔の記憶なので詳細は忘れましたが(ひょっとしたら作者が星新一さんというのも間違っているかもしれません)、”不思議な鍵”を手にした男が、その鍵に合う箱を捜し求める話です。
まだまだ若くて力も野心もある男は、ふとしたことから手にした不思議な鍵に惹かれ、その鍵に合う箱を一所懸命に捜し求めます。しかし、なぜかそれはなかなか見つかりません。それでも男は人生を懸けて捜し求めようとし、まさに世界を股にかけて冒険を繰り広げ、様々な体験をします。やがて歳を取り死を目前にするに至りますが、なんとか死ぬ前に箱を見つけることが出来ます。そして男が持っていた鍵をその箱に差し込んで回すと、蓋が開いて何か(完全に忘れました)が出てきて男に言います。「お前が望む物を与えてやる」。そうすると男は言うのです。「年老いた今の私に必要なのは思い出だけだ。だがそれはもう持っておる」。
この話、確か最初に目にしたのは小学生ぐらいだったと思いますが、なぜか今でも覚えています。思い出というのは要するに記憶ですから、とてもあやふやだし、いい加減だし、結構都合よく書き換えられていたりしますが、それでも良い思い出というのは本当に得がたいものであり、死ぬ間際に愛でることが出来るような思い出をたくさん持っていることはとても幸せなことだろうなーと思います。

プピ・アヴァティ監督のこの作品で、主人公の老女ラウラが死の床で心に抱く思い出は、高校生の頃に経験したボローニャからフィレンツェまでの徒歩旅行。彼女の憧れの男子生徒を含むクラス30人全員と引率の先生2人が参加したこの旅行では、行く先々で様々な事件が起こり、若き日のラウラは新鮮で驚きに満ちた経験をします。まあどれも”事件”というほどのものではなく、”微笑ましいエピソード”という感じのものばかりで、そんなにストーリーに起伏があるわけではありません。しかし、北イタリアの素朴で絵画的な風景描写とノスタルジックなBGMが効果的で、思わず引き込まれてしまいます。
演出的には少し馴染めないところがあり、ラウラ(=生徒)の思い出という割には先生たちのロマンスが事細かに描かれていたり、肝心の主人公である彼女のエピソードが意外とインパクトに欠けていたりと、少しちぐはぐに感じる部分もありました。また、孤独な女教師とマザコンの男教師とのすれ違いも、男のほうが純粋すぎて(時代背景からするとあり得ないことでもないのでしょうが)個人的にはあまり感情移入が出来ませんでした。
新婚夫婦の葬式の様子がフラッシュバックするシーンや山の精霊の力に触れるシーン等は結構印象的なので、もっとこういう感じの幻想的な映像が盛り込まれていても良かったような気がします。
しかしながら、とある老女の思い出というだけではなく、誰にでもある人生における新鮮で甘くほろ苦い瞬間を描きとったという意味では成功していると思いますし、さわやかな余韻を残す秀作であると思います。

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