No.104
タイトル
ロジャー&ミー
(原題)
ROGER & ME
監督
マイケル・ムーア
キャスト
マイケル・ムーア他
制作
1989年/アメリカ
ジャンル ドキュメンタリー
上映時間
90分
評価
★★★★
<ストーリー>
ミシガン州フリントは世界一の自動車会社GM(ゼネラル・モータース)の工場町として栄えた町。しかし、GM社の独断的な経営によって工場は移転、労働者たちはリストラされる羽目に。サンフランシスコから故郷に帰ってきたジャーナリストのマイケル・ムーアは、GMのやり口に腹を立て、とにかく会長ロジャー・スミスに町の現状を見せようと奔走するが、面会申請はことごとくはねつけられる.....。

<コメント>
強烈な批判精神をブラックな笑いで包んで、エンターテイメントにしてしまうジャーナリスト兼映画監督であるマイケル・ムーアが、生まれ故郷ミシガン州フリントで繰り広げる社会派ドキュメンタリー。自社の利益追求のみを考え、労働者をないがしろにする世界一の自動車メーカー・GM(ゼネラルモータース)と、その会長ロジャー・スミスを徹底的に皮肉った作品です。

とにかくこの軽やかで笑いを織り交ぜながらも痛烈な批判精神に富んだ語り口が絶妙。こういうのアメリカ人ってうまいですね。伝統的な手法と言ってもいいかもしれません。個人的には大好きです。コラムニストで言うとマイク・ロイコとかね。個人が企業や社会相手にはっきりとものを言うところは本当に尊敬します。その結果はどうあろうとも。
作品としてはドキュメンタリーなんですが、インタビューの合間に昔と今の映像を小気味よく挟んでリズムを出しているので飽きません。取材相手の口からビーチ・ボーイズが出てきた後、すぐに風景描写をバックに彼らの音楽を流すあたり、予想できる演出ではあるのですが、やっぱりにやっとさせられてしまいます。家賃を払えない人々に焦点を当てる際に、彼らを追い立てる人物を経由するところもうまい。間接的な表現にすることによって、直接手を下さない企業の汚いやり口が象徴されますし、虐げられる労働者たちの悲哀もじわっとしみるように伝わってきます。
不況下の工場閉鎖によって町や労働者が被害を受けるという問題は、要するに企業と地域コミュニティとの関係をどうするかということであって、これは決してフリントとGMだけの問題ではありません。日本でももちろん同じです。日産自動車の座間工場閉鎖は1995年でしたが、まだ記憶に残っている人も多いと思います。本作品におけるGMの戦略は閉鎖ではなく移転が目的ですが、さらにひどいと言えるかもしれません。また、この作品を見ればアメリカの場合は企業のコミュニティに対する姿勢の問題だけではなく、激しい貧富の差が問題をより複雑にしていることも見て取れます。ある日突然住むところを取り上げられる人やウサギを生活の糧にしている人(ここの部分凄すぎ)がいる現実と並行して見せられると、ミス・ミシガンやパット・ブーンのポジティブな発言も残念ながら偽善にしか聞こえてきません。

作品的には欲を言うと、親族が皆GMで働く中、マイケル・ムーアだけがそれを拒否した理由や、取材を行う上での苦労話みたいなものがもう少し見えても良かったような気がしますが、十分風刺が効いていて私たちにとっても示唆に富む作品になっていると思います。それにしてもアムウェイの成功って本当にGMのおかげもあったりして?

ちなみにこの作品は1989年のNY批評家協会賞・ドキュメンタリー賞及びLA批評家協会賞・ドキュメンタリー賞を受賞しました。なお、彼の毒気に魅せられた方は、先般日本で発売された彼の著書『アホでマヌケなアメリカ白人』(柏書房)及び今度は銃社会に斬りこんだ新作『ボーリング・フォー・コロンバイン』(日本では2003年正月上映予定)もお見逃しなく。

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