No.129
タイトル
プレイグ
(原題)
THE PLAGUE
監督
ルイス・プエンソ
キャスト
ウィリアム・ハート、ロバート・デュヴァル、ラウル・ジュリア他
制作
1992年/フランス
ジャンル ドラマ
上映時間
120分
評価
★★★★
<ストーリー>
激しい悪寒と嘔吐、そして死。南米オランの街に蔓延し始めた謎の病気。医師のリウー(ウィリアム・ハート)はこの病気を”ペスト”と診断。この事実を隠すよう要請する行政部の意見を無視し、彼は軍隊を呼んで街を封鎖すべきと主張するが.....。

<コメント>
戦争による自滅を除けば、人類が滅びる原因として最も可能性が高いのはやはりウィルスでしょうか。映画のテーマとして取り上げられることも多いですね。印象的な作品としてはテリー・ギリアム監督の『12モンキーズ』(1995)やダスティン・ホフマン主演の『アウトブレイク』(1995)等がありました。そんな中でもこの作品はアルベール・カミュの『ペスト』をもとにした異色作。監督は『オフィシャル・ストーリー』で1985年アカデミー賞外国語映画賞に輝いたルイス・プエンソ。

この作品の見所は何といっても豪華俳優陣の演技でしょう。何かと医師役の多いウィリアム・ハートですが、ここでは死の恐怖と戦いながら、同時に病気を隠蔽・利用しようとする人間たちとも戦う等、相反する思想・価値観の中で悩みながらも自身の使命を全うしようとする、正義感溢れる人間像を演じています。常に死と向き合う職業に身を置きながら、知人の死を目の当たりにしたときに感じさせる湧き上がるようなヒューマニズムは彼ならでは。ベテラン、ロバート・デュバルもあまり他では見られないユーモア精神に溢れた老人を軽快に演じていますし、残念ながら94年に亡くなってしまったラウル・ジュリアはペストの脅威に翻弄され、最終的に破綻してしまう人間像をリアルに演じています。
カミュの小説がベースになっていると聞くと、難解な印象を持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、仕上がりは良くも悪くもストレート。こうやって映像化されるとそれぞれのエピソードやキャラクターが印象的で、人間ドラマとしてエンターテイメントな側面も持ち合わせている小説だったんだなあと感じました。

しかし、そうは言いながらも原作は単なる見えない脅威とそれに抗う人間を描いただけのものではないのも事実。作中も死に対する宗教の立場、それを信仰するものの行動への批判等が見て取れます。ただし、人間の心理の不条理さや曖昧さが浮き彫りになっているかと言うと残念ながら少し浅い。逆に、猛威を振るうウィルスに対してパニックに陥るしかない人間や街の姿が描かれているかと言うと盛り上がりに欠けます。街全体が恐怖に震えている様子は見えず、一部の人たちだけがあわてている感じ。隔離する側とされる側に分かれる愚かさ、それぞれの側の人間の心理等、もっと描きこんで欲しかった気がします。結論としては中途半端な感じは否めないのですが、それでもそれなりに人間の限界、そして希望がほのかに伝わってくるのはやはりウィリアム・ハートの演技のおかげでしょうか。おそらく主演が違う人だったら評価の星の数は間違いなく一つ減っていたでしょう。
ウィルスそのものの恐怖を描くだけの映画であればカミュの原作を用いる必要はないし、そうでないのであれば、人間が恐怖と対峙したときに沸き起こる感情がもたらす愚かさや弊害を描いてこそ、私たちへの問いかけとなり、また警鐘となるのではないかと思います。

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