No.136
タイトル
ビーナス・ピーター
(原題)
VENUS PETER
監督
イアン・セラー
キャスト
レイ・マカナリー、ゴードン・ストラハン、デヴィッド・ヘイマン他
制作
1989年/イギリス
ジャンル ドラマ
上映時間
94分
評価
★★★
<ストーリー>
スコットランドのとある漁村で暮らす少年ピーター(ゴードン・ストラハン)。家族を捨てて街に出てしまった父親のことを知らず、母親と漁師のおじいさんに育てられた彼は、立派な船に乗って自分を迎えてくれる父親を夢見て、望遠鏡や詩の世界に浸る日々。ある日、そんな彼の前に父親が現れるが.....。

<コメント>
舞台は1940年代後半のスコットランド。聖水が凍っていたことから海水で洗礼式を行い、父がいなかったことから孤独を抱えて育ったピーターは、以来、自分のことを海に浮かぶ船と言い、おじいさんからもらった望遠鏡でいろんな場所や人を眺めては白昼夢に耽る日々。父親が現れたときの家族との関係のあり方が、唯一山場と言えそうな場面ですが、それ以外はストーリー的には特に大きな起伏もなく淡々と進んでいきます。ピーターが空想する世界の描写も特別こだわりがあるわけでもなく、まあそれなりの映像です。
しかしながら、繰り返し出てくる船の映像や、歴史ある言葉として発せられる詩、そしてなによりスコットランド(撮影が行われたのはオークニー諸島とのこと)の素晴らしい風景が重なり合って、非常に叙情的な作品に仕上がっています。
ピーターが通う学校の先生のキャラクターや、浜に打ち上げられた瀕死の鯨等、挿入されるエピソードのリズムもいいですね。特に鯨の部分はへたな空想シーンに比べて断然幻想的。先生を前にピーターが詩を読み上げる場面もいいです。空想にふける少年、と言ってもここにいるのは孤独や狂気に支配された都会的な少年ではなく、魂の存在を感じさせる風土や文化につつまれた詩的で牧歌的な少年。それゆえに彼の振る舞いや感受性が単なる理想像ではなくて、私たちに憧憬の念さえ起こさせます。少年役のゴードン・ストラハンは最初は特別かわいいとは思わなかったけれど、キャラクター的には素朴な感じが結構似合っているかも。
イアン・セラー監督は次作『プラハ』(1991)でも少し陰りのあるこだわりの映像を披露してくれますが、本作は、映像の美しさの中に出身地スコットランドに対する愛情が感じられます。もちろん、デレク・ジャーマン監督と組んだ『カラヴァッジオ』(1986)やスティーヴン・キング原作の『黙秘』(1995)等でも撮影を手がけたガブリエル・ベリスタインの手腕もあるかと思います。
ピーターの拠り所となるおじいさんの内面がもっと深く描かれていたら、と思わせられるところが少し残念なものの、全体的に静かなたたずまいの音楽も効果的で、さわやかな印象を残す作品になっています。

<以下、ネタばれ注意!>
ピーターは何かと船に乗る理想の父親像を作り出し思いを馳せますが、現実の父親は全く想像とは違う人物。船の売買の件もあって、おじいさんはおとなしくしているけれど、母親は裏切った父をぶってしまうほど怒りをあらわにします。結局、最終的には船も手放してしまうほど哀しい現実がここにはあります。それでもこの作品は、島の厳しい生活を真っ直ぐ見つめながらも、彼らが長年続けてきた仕事や生活が持つ重みや良さを再認識させてくれる映画なのだと思います。それほどオークニーの風景は自然で素朴で厳しくて、そして美しい。

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