No.78
タイトル
戦場のメリークリスマス
(原題)
MERRY CHRISTMAS, MR. LAWRENCE
監督
大島 渚
キャスト
デヴィッド・ボウイ、坂本龍一、ビートたけし、トム・コンティ他
制作
1983年/日本、イギリス
ジャンル 戦争ドラマ
上映時間
123分
評価
★★★
<ストーリー>
1942年ジャワ日本軍俘虜収容所。収容所を仕切る典型的な日本人であるハラ軍曹(ビートたけし)はその精神性を理解出来ない俘虜たちと日々衝突を繰り返していた。そんなある日ハラの上官であるエリート武官ヨノイ(坂本龍一)は、彼が参加した軍律会議の被告人セリアズ(デヴィッド・ボウイ)の言動に惹かれ、収容所に連行してくる。しかしそれがセリアズの戦友であり俘虜の中では唯一日本語を話すローレンス(トム・コンティ)を交え、さらにさまざまな相克を生むことになるのだった.....。

<コメント>
松田龍平を配した『御法度』(1999)で健在振りを示した大島渚監督が、1983年に異色のキャスティングで世に問うた問題作。東洋と西洋、生と死、個人と国家、愛と憎しみ等、対立する様々なテーマを盛り込んだ作品です。坂本龍一氏の奏でる美しくも哀しいタイトル曲の効果もあって大ヒットを記録しました。私は公開当時高校生でしたが、仲間と一緒に劇場に足を運び作品・音楽のインパクトに圧倒されたのを覚えています。

しかし当時から思っていたのはやはり、ヨノイ大尉=坂本龍一のキャスティングについては納得いかないということです。まず滑舌が悪くてセリフがうまく聞き取れないのと、作品中での役割からしてもっと日本人然とした俳優のほうが良かったのではないかと思ったからです。ビーとたけしの起用にもかなり違和感がありましたが、これはラストシーンの表情と”間”のおかげで救われました。一方セリアズを演じるデヴィッド・ボウイは最高だと思います。彼がいなければこの作品は成立しなかったでしょう。弟に対して行った卑劣な行為、そしてそこから生まれる悔恨と反省。自らの罪を贖うかのように彼が発する言葉や彼が取る反逆的な行動は、時に自暴自棄にさえ映りますが、その信念は今もなお私たちの心を揺り動かします。舞台が戦時中のため、ここではさまざまな価値観の対立が描かれますが、セリアズの精神性や行動は国や民族を超えて普遍的な価値を持っていると思います。
一番最初に見た時はヨノイがセリアズに恋愛感情を抱いたのではないかと思いましたが、その後何度も見返して、必ずしもそうではないと思うようになりました。それは尊敬・同情・嫉妬等様々な要素が入り混じった複雑な感情で、とても一言では言えませんが、それゆえにヨノイを苦しめたのだと思います。
この作品ではそういう感情を芽生えさせる行為として”種を蒔く”という言葉がキーワードとなっています。友情・理解・和解・許容等、人と人との関係から生じる感情はまず”種を蒔く”ことから始まります。そしてそれをお互いに育てていくことによって成立するのだと思います。戦時中でしかも敵対した間ではなかなか育てるところまでは行きませんが、それでも種を蒔くことは可能だということをこの作品は教えてくれます。
全体の印象としてはキャスティングと音楽に助けられたような感じもしないではないですが、デヴィッド・ボウイの演技、彼が弟を思い出すときの回顧シーンの美しさ、ラストの喪失感等見所はあります。

(以下、ネタばれ注意!)
私がこの作品で最も衝撃を受けたのは、「恥を晒すより死を選ぶ」といっていたハラ軍曹がラストシーンでその目に死への恐怖を宿らせていたところです。これが日本人の精神性の脆さをさらけ出しているように思えました。それは個人の中にそびえる確固たる信念でもなんでもなくて、あくまでも所属する組織や群集心理によって支えられた精神性であり、ゆえに脆く、不確実です。その脆さを最後まで感じさせなかったセリアズ、そこに共鳴したヨノイ。そして脆くも崩れ去ったハラ。考えさせられます。

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