No.178
タイトル
心の香り
(原題)
心香
監督
スン・チョウ
キャスト
フェイ・ヤン、チュウ・シュイ、ワン・ユイメイ他
制作
1992年/中国
ジャンル ドラマ
上映時間
98分
評価
★★★★
<ストーリー>
北方の町に住む少年、京京(フェイ・ヤン)。京劇班に所属する彼は、練習嫌いだが才能がある。ある日京京は、両親の別居により南方の祖父に預けられることになった。評判通り祖父は、頑固で口うるさくて小言ばかり。最初は馴染めない京京だが、祖父の優しい一面を見せられて徐々に打ち解けていく。そんなある日、祖父が落胆する事件が起こる.....。

<コメント>
中国から良質の作品を送り続けてくれる、叙情派スン・チョウ監督の作品。両親の離婚から母方の祖父の家に預けられることになった京劇役者の少年と、引退後、年金生活を送っている京劇の名優であった祖父との交流の物語。音楽を担当したのは『さらば、わが愛/覇王別姫(はおうべっき)』(1993)、『紅いコーリャン』(1987)等を手がけたチャオ・チーピン。

中国の伝統芸能である京劇のシーンで幕を開けるけれど、役者が足りない、と決して明るくない現状が語られるあたりがまずリアリティを感じさせます。さらに主人公の少年・京京を演じるフェイ・ヤンも取り立てて特徴の無い普通の男の子。両親の離婚という苦境にありながら飄々としているキャラクターにはぴったりなのですが、あまりに普通すぎて拍子抜けするぐらいです。しかし、その分、祖父を演じる名優チュウ・シュイが抜群の存在感。口うるさいけれどちゃんと優しさも持ち合わせている。で、結局このコンビがいい感じなんです。同じように寂しさをひた隠しにしながら生きる、大人びた少年と少年の心を持った老人。
作中、事あるごとに故事が引用され、言葉が人の生き方を示唆します。長い人生を歩んできた老人の口から発せられる言葉は少年には担いきれないほど重みがあります。それでも、結果的に少年と老人の心をつないだのは歴史上の人物の名言でもなく、古くから言い伝えられた故事でもない。京劇でした。言葉ではなく舞というところがいい。”心の香り”とは、言葉にも出来ないし目にも見えない、人と人とが響きあう感情のようなもの、といったところでしょうか。
非常に考え抜かれたカメラワークもあるのですが、舞台劇のように正面から2人の登場人物を捉えたショットも多いので、よく言えばベタ付いた人間ドラマになっていないけれど、悪く言えば観る側の視点は客観的なままです。しかし、それだからこそ、終盤の少年と祖父の心が共鳴する場面で一気に感情移入してしまうのです。主人公と近所の女の子のかわいいエピソードや祖父が京劇同好会の集まりで意地を張って舞台に立ち、結果酒を飲みすぎて担がれてくるくだり等、物語を必要以上に重くしない要素としてうまく機能していると思います。
最後に祖父は少年に言います。「親は選べんが、自分の道は自分で選べ」。少年は、そのまま祖父の家にいることも選べたのかもしれません。また、祖父もそれを望んでいたのかもしれない。しかし、祖父と祖父が長年連れ添った女性との行く末を目の当たりにした少年は、愛する人と一緒にいることの大切さを学び、本当の意味で大人への一歩を踏み出したのだと思います。

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