No.89
タイトル
イリュージョニスト
(原題)
DE ILLUSIONIST
監督
ヨス・ステリング
キャスト
フリーク・ド・ヨング、ジム・ファン・ダー・
ボウド他
制作
1983年/オランダ
ジャンル ドラマ
上映時間
91分
評価
★★★★
<ストーリー>
衣裳部屋で自分のショーの出番に向けて準備をする男。そしてその衣裳部屋のわずかに開いたドアの隙間から中を覗き込む男。ある時はショーに出演し舞台に立ち、又ある時は観客としてショーを見物する、どこか憎めないおっちょこちょいの兄弟二人。彼らを中心に繰り広げられるのは夢とも現実とも区別のつかない世界。それは楽しくて可笑しくて、そして悲しい.....。

<コメント>
オランダ出身のヨス・ステリング(ビデオのパッケージには”ジョス・ステリング”とありますがこちらのほうが一般的だと思います)監督の作品。デビュー作でオランダの画家レンブラントを題材にした監督だけあって、絵画を思わせる絵作りが特徴的で、サーカスや手品等のショーが舞台になっても、派手で明るいイメージよりも幻想的な雰囲気が際立っている感じの個性的な作品です。

物語の主役となるのは二人の兄弟。ともにヴィジュアル的にインパクトのあるキャラクターで、彼らの行動や家族とのエピソードを中心に物語は進んでいきます。
作中セリフらしいセリフは無く、おっちょこちょいの弟に兄が手を焼くところ等、ネタ的にも良く出来ていてテンポもよいので、まるで1920年代の無声コメディ映画を見ているような感覚に襲われます。しかしコメディといっても単なるスラップスティック・コメディではなく、またチャップリンのように純粋さによって皮肉な表現をするような感じでもありません。それは現実と虚構の入り混じった限りなくあいまいな世界です。実際彼らの身に起こることも現実にはありえない出来事が多く、想像と現実の境界線も見えません。それは作り物である事をお互い知っていて共有する虚偽の空間。デビッド・リンチ監督の最新作『マルホランド・ドライブ』でも魔術師が舞台で「これは作り物だ」と叫ぶ場面がありました。自分の望みをかなえてくれる空間を求めてそこに身を置いたとき、その場でその空間の本質を暴かれるというのは、我々が作り上げる夢や幻想は決して結実しないということを思い知らされる瞬間。しかしそれでもそれなしに現実を行き続けるのは苦しみの連続であることに違いはありません。その時にこの兄弟が無意識的にとった行動は、わざと道を踏み外したり、思いもよらない突飛な行動をとって無理やりにでも可笑しい空気を作り出していくという手段。この作品はそんな二人の兄弟の人生と行く末を描いた作品です。
兄はかなり度の強いめがねをかけていますが、弟がそれをはずしたとたん、兄は転んだり事故にあったりします。彼にしてみれば眼鏡を通さない世界は現実的な危険に満ち溢れた世界であり、レンズを通してみる世界が彼にとって生きやすい世界で、それはまさにイリュージョンの世界なのでしょう。ハエの飛び交う食卓を囲むしかない貧しい生活、常に困らせものの弟、自分のことしか考えない母親。そういった現実から逃避するための眼鏡であるのかもしれません。しかし、そうやって距離を置くがゆえに、たまに出会った女性にも欲望は抱くものの、現実の世界と自分の世界が決して交わることは無く、最後まで望みはかなえられません。さらに家族を引き裂く出来事はあとを絶たず、そういった現実は否応無しにのしかかって来ます。

虚構の世界で生き続けるためのルールが”言葉を発しない”こと。それを贖うがごとく弟が吹き続けるハーモニカの音は現実の世界に根ざして生きる人々には決して届きません。ここで提示される世界と私たちが実際に生きる世界とはどこが違うのか。私たちが扉から世界の内側をのぞくとき、そこに待っているのは幻想なのか、それとも現実なのか。もちろんいずれであろうとも、私たちがこの兄弟と同じく舞台で踊る道化師であることに代わりはありません。

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