No.234
タイトル
ファイブ・イージー・ピーセス
(原題)
FIVE EASY PIECES
監督
ボブ・ラフェルソン
キャスト
ジャック・ニコルソン、カレン・ブラック、ビリー・グリーン・ブッシュ他
制作
1970年/アメリカ
ジャンル ドラマ
上映時間
98分
評価
★★★★★
<ストーリー>
ボビー(ジャック・ニコルソン)はカリフォルニア南部の石油採掘現場で働く労働者。何に対しても積極性が無く、いい加減な毎日を送っている。ある日、同棲しているウェイトレスのレイ(カレン・ブラック)が妊娠していることがわかり、家を飛び出したボビーは姉から父が卒中で倒れたことを聞かされる。ボビーはレイを連れて3年ぶりの我が家へ帰るのだが.....。

<コメント>
カントリーの名曲『スタンド・バイ・ユア・マン』から始まるこの作品。疲れた男たちを癒すメロディと詩が、油田で働く男たちのシルエットのバックに流れるという哀愁を感じさせる冒頭シーンは、もうちょっと長くてもいいのに、と思わせます。しかし、この映画は、肉体労働者たちへの賛歌でも、アメリカ開拓者たちへのオマージュでもありません。場面は早々に男を待ち受ける空虚な家と遊び場へと移ります。そこには恋人や友人たち、さらには社会そのものとすれ違う主人公ボビーの姿。ジャック・ニコルソン演じる主人公ボビーだって、生まれた時から苦悩を抱えていたわけではないでしょう。誰しも純粋な心と共に生まれてくるはず。しかし、さまざまな要因が複雑に絡み合って、やがて自分ではどうしようもない不安が作り出されてしまう。
作中、兄の恋人に頼まれて簡単な曲(easy pieces)を弾き、彼女がそれを素晴らしいと褒める場面があります。ボビーもピアノを習い始めた頃はこういう曲を弾いては大人から褒められ自尊心を満足させていたのかもしれない。それがいつの間にか気がついたら現在のような状況になっている。ハッキリした理由もわからないし、わかったとしてもどうしようもない。自分に出来るのは”いつの日か”というほんのささやかな希望、いや幻想にすがり、今の場所から逃げるだけしかないのです。彼女の態度には他の意図もあったのかもしれませんが、私たちはこんな些細なことで心ほだされるボビーに共感せざるを得ません。
ジャックニコルソンの演技も素晴らしいし、時折挿入されるたそがれの風景も素晴らしいし、音楽の使い方も気が利いている。しかしストーリーは単純だし、主人公のわがままぶりは鼻に尽くし、見る人によって差が出るであろう事は事実。それでも、理想や成功のモデルがあまりにもはっきりと示された社会で、それらを拒絶し、彷徨うボビーの生き方には、決して他人とは思えないリアリティがあります。行き場のない人間は彷徨い続けるしかない。そこには幸せも不幸せもなく、ただ、終わりのない黄昏があるだけなのです。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送