No.112
タイトル
カラスの飼育
(原題)
CRIA CUERVOS CRIA!
監督
カルロス・サウラ
キャスト
アナ・トレント、ジェラルディン・チャップリン、コンチ・ペレス他
制作
1975年/スペイン
ジャンル ドラマ
上映時間
107分
評価
★★★★
<ストーリー>
マドリッドに暮らす三姉妹は父と母を相次いで無くし、叔母に引き取られる。しかし、三姉妹にとって叔母は権力と秩序の象徴でしかなかった。そんな中、次女アナ(アナ・トレント)は優しく懐かしい亡き母の幻影を求め、思い出と空想の世界をさまよい始める.....。

<コメント>
スペインの実力派カルロス・サウラ監督が、『ミツバチのささやき』(1973)で話題を呼んだ少女、アナ・トレントを主演に配して送り出した心理ドラマ。
さまざまな出来事を経験して揺れ動く、多感な少女の心情を繊細に紡ぎだした作品です。

物語は過去と現在のアナの視点が交錯しながら展開していきます。見所はやはり主人公アナの演技。父の浮気や母の死等、さまざまな出来事が彼女の心に大きな影響を与えるのですが、中でも特に彼女を捉えたのは、子供の世界ではまだまだリアリティの薄い“死”の存在。”死”というものに触れてしまったアナは、この未知なる存在に恐れを抱きながらも自分なりに理解しようとします。しかし、幼いアナは自分の身の丈の大きさでしか”死”を理解することしか出来ません。他人に対して「死んでしまえ」と言うのは大人の社会ではタブーの一言。それは社会的な”死”を認識しない存在である”子供”だけが持ち得る残酷さ。彼女の真っ直ぐに状況を見据える透き通った目、純粋でありながら芯を感じさせる演技がこの可愛くも残酷な心理を表現しています。

家庭内の事件が子供に及ぼす悪影響を表現する場合、性的虐待や暴力等の設定や描写が多くなりがちですが、両親から直接何かされなくとも、子供はいろんな事柄から敏感にその事実以上のものを感じ取ります。また、ショッキングな場面に遭遇した際に、大人のように取り乱すかというと、必ずしもそうではなく、自分を襲う未知の感情を外に出せないため、先ず何とか自分と世界との折り合いをつけようとします。作中、アナの態度が思ったより冷静に見える場面があるかもしれませんが、それは逆に恐怖や衝撃の裏返しと言えると思います。そんなアナの反応に比べ、母親にしろ叔母にしろ、ショックに対面した大人たちは感情を残らず絞り上げるような嗚咽を吐きます。
抑圧された感情を解き放つかのように人目に隠れて人形を叱るアナ、母親が寝床でお話を語ってくれる夢から目覚めて叫ぶアナ、葛藤や不安に苦しみながら”生”をさ迷うアナの姿は痛々しくてせつないです。アナは同じ世界にもう一人の自分を出現させたり、母が授けてくれた毒薬で父親殺しを実行したりしますが、いずれも彼女が世界と折り合いをつけるうえで、はみ出ざるを得なかった歪みのようなものだと言えるでしょう。
現在のアナの役割と心理描写が弱い気はするものの、サスペンスとファンタジーの要素を孕み、”死”のモチーフを用いながらも重くなりすぎず、ラストでは不思議なカタルシスが味わえるこの作品。少女が大人への第1歩を踏み出したときに通る現実と妄想の狭間、その瞬間を封じ込めた秀作です。

ちなみに『カラスの飼育』とは「カラスを育てれば目をえぐられる」というスペインの諺から取られたもので、「カラスのような野生の鳥を育てると、思わぬ報復を受ける」という意味だそうです。
この作品は1976年カンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞しました。

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