No.100
タイトル
ミッシング・エンジェル/春にして君を想う
(原題)
CHILDREN OF NATURE
監督
フリドリック・トール・フリドリクソン
キャスト
ギスリ・ハルドルソン、シグリドゥル・ハーガリン、ブルーノ・ガンツ他
制作
1991年/アイスランド、ドイツ、ノルウェー
ジャンル ドラマ
上映時間
85分
評価
★★★★
<ストーリー>
長年暮らしていた農場を捨て、都会に住む娘一家を訪れた老人ゲイリ(ギスリ・ハルドルソン)。だが孫と折り合いが会わず、娘に同居を拒否される。しかたなくゲイリは老人ホームへと移るが、そこで幼なじみの女性ステラ(シグリドゥル・ハーガリン)に出会う。「故郷で死にたい」と嘆く彼女の望みを叶えるため、ゲイリはステラを連れてホームから脱走する.....。

<コメント>
アイスランドを舞台にリアルでありながら幻想的な映像美を見せるフリドリック・トール・フリドリクソン監督の作品。この作品はモントリオール映画祭・芸術貢献賞(1991)、サンレモ映画祭主演男優賞・聴衆賞(1992)等各国の映画祭で様々な賞を獲得しました。アカデミー賞では外国映画賞にノミネート(1992/受賞はガブリエレ・サルヴァトレス監督の『エーゲ海の天使』)。しかし邦題は何とかならなかったんですかね...。

冒頭の皆で歌を歌いながら羊を追うシーン、暗闇の中一人で食事をするシーン、旅支度をする男のしぐさ、いきなり映画の終焉を思わせるような緊張感にぐいっと引き込まれます。
この監督の作品の見所はやはりなんといってもアイスランドの空気をそのまま封じ込めた映像にあると思います。ごつごつした山間、吹きすさぶ風に視界を防ぐ濃い霧。そういった風景からは土地の持つ厳しさがひしひしと伝わってきます。またコントラストの強い映像は空気の冷たさ、薄さを感じさせます。しかし、そういった不毛の場所を思わせる描写が多いにもかかわらず、同時に素朴な力強さを感じさせるのも事実。むしろその荒々しさが安心感にさえ繋がったりします。まさに人間の手におかされていない原風景といった感じです。またそこで生きる人たちも決して表情は明るくないですが、自然と正面から向かい合いしっかりと生きている様が表現されています。

今回はそんな土地を舞台に年老いた二人が繰り広げるロードムービー。主人公は娘に同居を拒否され(孫が聞いているのはやっぱりビヨーク!)老人ホームに入った男。歌って踊るばかりの囚われの生活に嫌気がさし、偶然出会った初恋の人の願いをかなえるため、ジープを奪っての逃避行。施設での客観的な視点も男の心情をよく表していると思います。彼らを操作する警察の描写や途中挿入されるファンタジックなシーンもやり過ぎていないのでマル。ロードムービーといってもアイスランドの荒涼とした土地や幻想的な背景のせいもあってか、何か神聖な雰囲気すら感じさせます。自らの居場所を求めてあてどなくさまよう若者の旅ではなく、自分が帰るべきところに戻るための旅。それは人間の尊厳を求める道程でもあるため、誰にも止めることは出来ません。愛する人のために棺を作る彼の目には求道者とも言えるような力が輝いていました。
終盤、少し間延びしてしまうところが残念ですが、この作品は私たちが普段とても大事なことを忘れて生活していること、そして自ら選んだ場所で人生を終わることがいかに幸せなことであるかを教えてくれます。

<以下、ネタばれ注意!>
故郷に戻ったステラが思い出に浸るシーンは美しいですね。現実と記憶が違和感なく続く世界。それは天国に近い世界かもしれません。そして渾身の力で彼女を送り出した男もまた、その世界に導かれるかのように、天国への扉のように見える壊れた柵の前で消えていきます。それはブルーノ・ガンツ演じる天使(それにしても絶妙の現れ方ですね)の仕業であり、最後の最後で人生に目覚めた男の幸せの第一歩だったのかもしれません。

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