D-Movie(No.70)
タイトル
ブルーベルベット
(原題)
BLUE VELVET
監督
デヴィッド・リンチ
キャスト
カイル・マクラクラン、イザベラ・ロッセリーニ、デニス・ホッパー他 
制作
1986年/アメリカ
ジャンル サスペンス
上映時間
121分
評価
★★★★
<ストーリー>
ノース・キャロライナ州ランバートン。大学生のジェフリー(カイル・マクラクラン)は突然の発作で入院した父を見舞った帰り道、野原の茂みの中に切り落とされた人間の耳を見つける。彼はすぐにその耳を警察に届けるが、ふとしたことから事件に関する情報を入手、好奇心に駆られ自ら調査を始める。やがて彼はのどかな町の裏側に暴力とセックスが渦巻く恐るべき世界が存在することを知る......。

<コメント>
現代人が抱える恐怖や不安を独自の映像で表現し、カルト的な人気も高いデビッド・リンチ監督の作品です。彼の作品を見たのはテレビの洋画劇場で放映された『エレファント・マン』(1980)が最初でした。当時この作品は”実在の人物をモチーフにしたヒューマニズムあふれる感動作”、のような紹介のされ方が多かったのですが、その解釈にとても違和感を感じたのを覚えています。私にはどう考えても人間の闇の部分を真っ向から浮き彫りにした作品としか思えなかったからです。しかしその独特の映像世界に強く引き込まれ、その後公開された『イレイザー・ヘッド』(1976−本国ではこちらがデビュー作)にさらなる衝撃を受け、その次の本作『ブルーベルベット』で完全にノックアウトされたわけです。この作品は、前作までの少し荒い感じのモノクロ画像から一転、鮮やかで妖しい色使いを用いた映像が印象的な作品で、彼の初期の作品の中でも完成度が高い方だと思います。

リンチの作品はその個性的なキャスティングも魅力の一つです。主人公ジェフリーを演じるカイル・マクラクランはハンサムな俳優の部類だと思いますが、その瞳はどこか現実離れした異様な輝きを放つ時があり、まさにリンチ・ワールドに不可欠な”住人”と言えると思います。ここでは表と裏の2つの世界を行き来しながら、それぞれの世界に生きる2人の女性を愛するという、やはり現実と幻想の間を彷徨う男の役を熱演しています。裏の世界の象徴とも言える、強烈なキャラクターの悪役を演じるデニスホッパーもいつもながらの怪演です。またこの作品を印象付けるヒット曲『ブルーベルベット』を歌う歌手ドロシーを演じるイザベラ・ロッセリーニもとても魅力的です。ただ改めて見ると彼女の存在感が今ひとつ薄いように感じられたのですが、それは彼女のせいではなく、私が『マルホランド・ドライブ』のローラ・エレナ・ハリングを見て間もないからだと思います。

彼の作品では幻想と現実の世界が複雑に交錯しながら一つの世界観が確立されていくパターンが多いですが、ここでは表の世界に相反するように裏の世界が存在しており、またその境界線もはっきりしています。また表の世界から裏の世界を覗いた主人公が、裏の世界の掟によってきっちり罰を受ける等エンターテイメント的にもバランスが取られています。そういう意味では彼の作品としては比較的ストーリーがわかり易く、純粋にサスペンス・ドラマとして楽しめるのではないでしょうか。
しかし、冒頭ののどかな風景の描写からそれに続く父親の異様な発作、捨てられた耳やうごめく虫たちのアップ等、ここに展開されているのは私たちが住み、生活し、認識している世界でありながらどこかねじれており、やはりまぎれもなくリンチが作り出した世界であると認めざるを得ません。我々が少しでも現実の世界に疑問をもち、内なる世界の存在に耳を傾ける時、彼がよく用いる排気口が黒い空気を吐き出すようなインダストリアル・ノイズが聞こえてくることでしょう。

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