D-Movie(No.75)
タイトル
ビフォア・ザ・レイン
(原題)
BEFORE THE RAIN
監督
ミルチョ・マンチェフスキ
キャスト
グレゴワール・コラン、ラビナ・ミテフスカ、カトリン・カートリッジ他 
制作
1994年/イギリス、フランス、マケドニア
ジャンル ドラマ
上映時間
115分
評価
★★★★★
<ストーリー>
最初の物語はマケドニアの美しい山岳地帯で暮らす若い修行僧キリルと少女との物語『言葉』。続いてはロンドンを舞台に写真エージェントで働く女性編集者アンとカメラマンで愛人のアレックスとの愛の模様を描いた『顔』、そして最後は仕事を捨てて故郷の村を訪ねたアレックスと、彼がかつて愛していた女性ハナとの物語『写真』。これら3つのエピソードが微妙に交錯し繋がりながら人間の愛、憎しみ、哀しみといった感情を浮き彫りにしていく。......。

<コメント>
マケドニア出身のミルチョ・マンチェフスキー監督のデビュー作。彼はこの作品で1994年のヴェネチア国際映画祭”金獅子賞”以下10部門に輝く栄誉を手にしました。一見何の関係も無いように見える3つのエピソードが微妙に交錯・循環しながら人間の”業”とも言える心理を映し出すという驚愕の作品です。

3つのストーリーが進むに伴い、舞台はマケドニア→ロンドン→マケドニアと移り変わりますが、全体の背景には旧ユーゴ紛争の一環として独立したマケドニアと、国内のアルバニア人との対立が影を落としています。旧ユーゴの紛争に限らずいわゆる民族紛争と呼ばれる争いは、経済・人種・宗教等様々な要因が根幹にあるため、正確に理解するのは極めて難しい問題だと言えるでしょう。しかし少なくともこの作品では様々な対立から生まれる暴力を描写することによって紛争の醜さを暴きだしているように思われます。特に印象深いのは2話の『顔』で描かれるレストランの場面。ボーイともめている客が「金を払えばいいんだろう」とばかりに札を投げつけ、それでも飽き足らずにとんでもない行動に出て、結果的にレストランは悲惨な事態に。そしてラストはいかにも新聞(=メディア)の話題になりそうなショットで締めくくられる...。この余りにも救いの無いシーンが、東欧の現状を浮き彫りにしていると言えるのではないでしょうか。
また3つのストーリーを交差させる演出は手法としては映画の可能性を広げるような試みであり、非常にインパクトがありますが、それ以上にマケドニアのみならず人間がいく世にもわたって繰り返してきた憎しみや争いの歴史をそのまま表現しているように思われます。クウェンティン・タランティーノ監督の『パルプ・フィクション』でも同様に時制がねじれていましたが(もちろんあれはあれで非常に楽しい演出でした)、こちらにはもっと深い意味が込められているように思います。

人間同士の対立が憎しみを生み、憎しみが暴力を生む。そしてその暴力がまた新たな憎しみを生むと言う循環。しかしまず最初に生まれたのは憎しみではなく、その裏側にあるものだと思います。それは先祖から伝わった宗教かもしれないし、先祖から授かった土地かもしれないし、自分の家族かもしれないし、愛する人かもしれない。いずれにしても自分にとって守りぬかなければならないもの、またはそれを守りたいという信念。それが危険に晒されたときそこに憎しみが生じるのだと思います。少し強引な引用ですが、朝の通勤電車の中で足を踏んだとか踏まないとか、我々の身近にももちろん対立があり(これはちょっとレベルが低いですが)、そこからは確実に憎しみが生まれているはずなのです。われわれは常にそういった感情と向き合わなければならないし、それを解決していかなければならないと思います。主人公のアレックスのように。
この作品は映画的な手法で観客を引き込みながら、そういうメッセージを発し、考えさせることに成功していると思います。日本に住んでいる我々の今の生活も過去の戦争や政治の上に成り立っているのは間違いありません。ここには”遠くの国の争い”では片付けられないメッセージがあります。

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