D-Movie(No.90)
タイトル
小さな旅人
(原題)
IL LADRO DI BAMBINI
監督
ジャンニ・アメリオ
キャスト
エンリコ・ロ・ヴェルソ、ヴァレンティーナ・スカリーテ他
制作
1992年/イタリア、フランス、スイス
ジャンル ドラマ
上映時間
116分
評価
★★★
<ストーリー>
11歳の少女ロゼッタ(ヴァレンティーナ・スカリーテ)は母親に強要され売春をさせられていた。ある日、ロゼッタが客と一緒にいるところに警察が踏み込んで、母親共々逮捕されてしまう。その後ロゼッタと10歳の弟ルチャーノ(ジュゼッペ・イエラチターノ)は、若い憲兵アントニオ(エンリコ・ロ・ヴェルソ)に連れられて孤児院に護送されることになるが.....。

<コメント>
『いつか来た道』(1998)がヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を獲得する等好評だったイタリアのレアリスト、ジャンニ・アメリオ監督の作品。死刑制度について取り上げたデビュー作『宣告』(1990)に続く作品です。イタリア社会に根付く矛盾や様々な問題点をロードムービー風に描いています。脚本も監督が手がけています。

母親に売春をさせられていた幼い娘とその弟が主人公。姉の売春が発覚し、裏で仕切っていた母親が逮捕されたところから物語は始まります。父親はそもそもいないため(子供を作って逃げた?)家を追い出され施設に入れられることになった姉弟。そしてその役目を友人の裏切りから一人で背負う羽目になった若い憲兵。
姉が売春をしていたという事実から行く先々で受け入れを拒否される子供たちと、嫌々ながらも厳しい現実にさらされる子供たちを守ろうとする憲兵の3人の交流と顛末を描いた作品です。

姉弟関係の描き方は興味深いですね。母親と引き離され社会に放り出されてしまった二人。お互いを憎み、争いながらも他に頼る人がおらず、二人で生きていくしかないんだというあきらめの気持ち。そして、周りになんと言われようとも血のつながった者同士、片寄せあって生き抜こうとする前向きな気持ち。そこには愛とか優しさとかいうような言葉では表すことの出来ない、強い絆が感じられます。彼らにとことん冷たい社会の中で、唯一若い憲兵だけが彼らの味方。憲兵の活躍(?)はそれだけにとどまらず、身内の集まりの中で疎外されている祖母に優しく声をかけるのも彼。治安の悪いイタリアで引ったくりの男を正義感ある行動で捕まえるのも彼。子供たちの保護者的役割だけでなく、ある意味歪んだ社会の矯正役として機能する新しい力としても描かれています。
しかし貧困や差別が横行する社会の中で、最も大きな問題は皮肉にもそんな憲兵の行く末が示唆しています。歴史のあるコミュニティの中で生きていくにはそこで培われてきたルールに従わなければなりません。子供たちはいわばそのルール違反を犯したわけで、そこには「子供だから」という救いの手はありません。それは一介の憲兵一人ががんばって訴えたところで覆らない、伝統のあるルール。憲兵に残されたのはそのルールに従うか、子供たちとともに自らもさまようかの二者択一。そう考えると冒頭で姉が身体を売る場面で、行為そのものの描写が全くないあたり、意図的なものを感じます。売春だけが問題なのではないということ。

中盤、シチリア島の南のビーチで3人が過ごすシーンがありますが、乾いた日差しと海の描写はこれぞイタリアという美しさ。この場面は背伸びして生きてきた子供たちが普通の子供に戻る瞬間でもあるのですが、憲兵の努力もさることながら、澄み切った青い海と空が子供たちの心を開かせる要因のひとつであっただろうと思わせます。無邪気に海につかり、泳ぐ練習をする二人はしばし厳しい現実を忘れたことでしょう。
そしてラストシーン。やはりコミュニティと相容れないが如く自ら車を降り、二人寄り添い言葉を交わすシーンには、社会の底辺に生きる人間の厳しさと優しさが凝縮されています。
ちなみにこの作品は1992年のカンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞しました。

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