D-Movie(No.81)
タイトル
アリス
(原題)
ALICE
監督
ヤン・シュヴァンクマイエル
キャスト
クリスティーナ・コホウトヴァー(演技)、カミーラ・パウアー(声)
制作
1988年/スイス、西ドイツ、イギリス
ジャンル アニメ
上映時間
85分
評価
★★★★★
<ストーリー>
リンゴの芯が転がり、古びた人形や積み木が散らかった部屋で退屈していた少女アリス。ふと見ると突然白いウサギがガラスケースの中に。ウサギは服を着替え、ハサミをポケットに入れ、時計を見ると「大変だ遅刻するぞ!」という言葉を残し机の引き出しの中に消えてしまう。そしてそれを追いかけ、自分も引き出しに飲み込まれるアリス。それが不思議な幻想の世界への旅の始まりだった.....。

<コメント>
ルイス・キャロルの世界的名作『不思議の国のアリス』をチェコのアニメーション作家ヤン・シュワンクマイエルが3年の歳月をかけて独自の手法とセンスで映像化した初の長編作品。原作のテイストそのままに悪夢ともファンタジーとも言える作品に仕上がっています。

ヤン・シュワンクマイエルは私が最も好きなアニメ作家です(最近はヤン・シュヴァンクマイエルの表記の方が正しいのかな)。今でこそ『アリス』をはじめ『ヤン・シュワンクマイエル短編集』(1965〜1994)、『ファウスト』(1994)等、彼の多くの作品がDVDやビデオで簡単に手に入りますが、以前はそういったメディアではほとんど手に入らず、吉祥寺の小さな劇場なんかでひっそりと上映されているのを見つけては何度も通ったのを覚えています。
私は本来アニメの良さというのは、”動くはずのないものが動く”ということだと思います。絵だとかモノだとか、決して動くはずの無いものが人間の目の錯覚によって、あたかも生きているかのように振舞い、私たちと同じように喜びや悲しみを経験し、時には私たち以上に生命を感じさせたりしてくれる。そういったことによって普通では得られないインパクトや夢を与えてくれることがアニメの良さであり役割のような気がします。ヤン・シュワンクマイエルの作品はまさにそうで、一度見たら忘れられない独特の作風で、単なるアニメの域を超えたシュールレアリスムな芸術作品の様でありながら単純に笑えたり、また考えさせられたりするところがハマります。
本作についてはストーリー的にはほぼ原作通りに作られているのではないかと思います(そもそも原作を最後に読んだのはだいぶ昔なのであまりよくわかりませんが)。完成度と言う意味では、他の短編に比べると多少冗長な部分が目に付いたりします。しかし、とにかく登場するキャラクターが皆グロテスクとも言える強烈なインパクトを持っており、実際の少女が演じているアリスとの対比も面白く、その不思議な映像世界にはやっぱり引き込まれてしまい、眼が離せません。秀逸なのは目玉と入れ歯と靴下が集まって出来たイモ虫!良くこんなの考え付くなあと感心してしまいます。

ヤン・シュワンクマイエルで最初に観たのは『ヤン・シュワンクマイエルの短編集』でした。これは8本の短編からなる作品で、中にはスターリン主義を強烈に皮肉った『スターリン主義の死』やドキュメンタリー・タッチで シュワンクマイエルの軌跡を辿る『プラハからのものがたり』等が含まれていました。こういった作品を見ると彼にとって作品を作ると言うことがほとんど”戦い”といってもいい程の行為だったということがわかります。思想的に統制された国では自由な発想というのはそれ自体危険なわけですが、芸術というのは時に大きな力を持ちうるものなんだなあ、と言うようなこともあらためて考えさせられます。ちなみにヤン・シュワンクマイエルはあるインタビューでルイス・キャロルのことを”疑いようも無くシュールレアリスム運動のパイオニアの一人”と呼んでいます。国の体制に関わらず彼の作品を見て想像力を羽ばたかせることは現代人にとっても大切な事のような気がします。

なお、先日彼の新たな(といっても作られたのは昔ですが)作品集『ジャバウォッキー/その他短篇』と『ドン・ファン/その他短篇』の2作品がDVDとビデオで発売されました。興味のある方はぜひ。

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