D-Movie(No.519)

・邦題:『タイム・オブ・ザ・ウルフ』
・原題:『LE TEMPS DU LOUP』
・監督:ミヒャエル・ハネケ
・脚本:ミヒャエル・ハネケ
・キャスト:イザベル・ユペール、ベアトリス・ダル他
・制作:2003年/フランス、オーストリア、ドイツ
・ジャンル:ドラマ
・上映時間:109分
・評価:★★★★


【 ストーリー 】
舞台は危機的な災害が起き、深刻な水と食料不足に陥った近未来のヨーロッパ。ジョルジュとアンナ、そして子供たち2人の家族は、わずかな貯えを持ち、子供たちを守るために田舎の別荘へ向かう。だが、別荘には見知らぬ家族が忍び込んでおり、男が銃を持って脅してくる。夫婦は何とか子供たちを守ろうとするが...。

【 コメント 】
2009年製作の『白いリボン』がカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した(とうとうきた!って感じですね)ミヒャエル・ハネケ監督作品。
舞台は近未来のヨーロッパ。詳しいことはほとんど分かりませんが、私たちが今暮らしている時代とさほど変わらないことは確か。冒頭はいきなり自らの作品へのオマージュとも思える演出。おそらく物語が始まってからこんなに早くトラブルに巻き込まれる家族はいなかったでしょう。そこから物語は闇の中に包まれていきます。

原因もわからず、行く先も分からず、ただ闇が支配する世界に放り出された主人公の家族。誰もが今いる場所から逃げ出そうとする世界では、いろんな人間がいろんなルールを作って支配していますが、それは信頼関係の上に築かれたものではなく、お互いの緊張関係の上に成り立っているあまりにも細い糸によって編まれたルールです。そんな一触即発の世界の中で人間たちからはそれぞれの欲望が滲み出してきます。本作ではいたるところで炎が登場し、物語をさまざまな方向へ導いていきますが、人々がお互いを疑い合うという、疑心暗鬼に絡め取られた世界の中では、小さなライターの火であれ、大きく燃えさかる薪のひであれ、炎がとてつもなく優しい存在に見えます。時にすべてを焼き尽くし、時にすべてを照らし、時に人を暖める炎とは、混迷の時代において最も公平な存在でもあるのかもしれません。その炎に引き寄せられた少年は、己を裁こうとしたのか、それとも崩れ逝く世界を救おうとしたのか。人間の感情や行動が暴動や殺戮に向かうぎりぎりのところを描き続けたミヒャエル・ハネケ監督による『サクリファイス』。今の時代に、私たちが取らなければならない行動とは一体何なのでしょうか。最初から最後まで音楽も排除され、徹底して人間同士のコミュニケーションに目を釘付けにさせられる中で、大人たちのエゴイズムと子供たちのそれでも豊かな感情が交錯します。重さの中に静かな感動が横たわる作品。

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