【 コメント 】
一攫千金を狙う床屋からやさぐれサンタまで、作品ごとに見事にキャラクターを演じ分けるビリー・ボブ・ソーントンが監督・脚本・主演を兼ねた作品。主人公で知的障害者のカールをソーントン自らが演じています。
かつて母とその浮気相手を殺害してしまったカール。しかしながら彼は精神的に問題があるとされ刑務所ではなく病院に送られます。そして25年間にわたって病院で暮らしていた彼は、突然”更正した”という理由から社会に戻されます。行くあてのない彼は一旦は病院に戻るものの、何とか故郷の町で職につき、ささやかながらも安定した生活を手に入れます。そしてふとしたことで知り合った父親を亡くした一人の少年フランクと、少しずつ交流を深めていきます。そして、フランクの家族や友人と関わっていく中で、やがて彼の中にある決意が湧き起こります...。
ある種”普通と違う”(普通という概念そのものが実はあやふやなものですが)人間が、その純粋さや突拍子も無い発言や行動によって、”普通”と思われている人々を啓蒙したり救ったりするプロットはよく映画に登場します。本作ではそういう部分が必要以上に協調されていないところに共感がもてます。逆に、周辺の人々がカールに優しすぎる気がしないではありませんが、まともなだけの人はほとんど出てきませんので。
いずれにしても本作はとにかくソーントンの冒頭とラストのまなざしの違いが素晴らしいです。自分が正しいと思うことが社会では必ずしもそうではない、ブレイド=刃は時に役に立ち、時に人を傷つけます。そんな繊細さゆえに社会からはみ出すカール。カールのやったことは私たちの常識では決して許されるものではない、しかしながら、彼のまなざしはなすべきことをした人間だけが持つ安堵と威厳に包まれています。先も読めますし驚くような展開はありませんが、見終わった後にさまざまなことを考えさせられる作品です。ちなみに本作は同年のアカデミー脚色賞を受賞しました。
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