D-Movie(No.526)

・邦題:『オテサーネク 妄想の子供』
・原題:『OTESANEK』
・監督:ヤン・シュヴァンクマイエル
・脚本:ヤン・シュヴァンクマイエル
・キャスト:ヴェロニカ・ジルコヴァ、ヤン・ハルトゥル他
・制作:2000年/チェコ、イギリス
・ジャンル:コメディ
・上映時間:132分
・評価:★★★★


【 ストーリー 】
子どものいない妻を慰めようと、夫ホラーク(ヤン・ハルトゥル)は木の切株を赤ちゃんの形に削ってプレゼントする。夫人はその切り株に本物の子どものように接し、かいがいしく世話をする。やがてその切り株は、昔から伝わる民話と同じように生をうけ、周りのものをどんどんと食べ尽くしていく。恐怖を感じた夫はその切り株を退治しようとするが...。

【 コメント 】
『アリス』(1988)、『ファウスト』(1996)などで独自の映像世界を構築してきたシュヴァンクマイエルが、チェコに伝わる民話『オテサーネク』をベースに描いた現代の寓話とでもいうべき作品。主役は子供に恵まれない夫婦。
子供がいないことを嘆き悲しむ日々を送る妻のために、木の切り株を人間の形に削った赤ん坊をプレゼントする。喜んだ妻は切り株に”オティーク”と名づけ、本当の赤ん坊のごとくかいがいしく世話をする。やがてオティークは生を受け、本物の赤ん坊のように泣き声を上げる。妻は喜んで世話を続けるが、オティークの食欲はとどまるところを知らず、ありとあらゆるものを食べつくし始める...というストーリー。

本作とその前の『悦楽共犯者』(1996)の2作は”性”というモチーフが前面に出た作品。さらに本作は民話がベースとなっている分、いろんな意味でわかりやすくなっていると思います。個人的にはシュバンクマイエルの描く悪夢的でかつ哲学的な映像世界が好きなので、ちょっと物足りない気もしますが、もちろん孤高の世界観は健在。
本作では、物語の元凶を引き起こすのも女性、切り株の赤ん坊”オティーク”を育てたり、匿ったりするのも女性、さらに物語を終焉に導くのも女性。男性はどの場面でもさほどの存在感を示しません。唯一夫ホラークは、切り株を亡き者にしようと奔走しますが、結果を出すには至らず。そもそも会社では影の薄い存在です。
無償の愛を越えて、己のエゴとも言える母性を発揮する女性たちに頼り切ってしか生きられないオティークはある意味非常に純粋な存在です。そして、純粋な存在が純粋なままでは生きられない、それはそのまま社会の、人間の生というものの矛盾を暴きだしているような気がします。単純にホラー作品として見ると物足りない面があるのは否めないものの、全体を通して人間の業に囚われた一組の夫婦が迷い込んだ妄想の迷路として対峙すれば、皮膚や内臓感覚を刺激する映像と共に、心に残る物語となると思います。

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