【 コメント 】
舞台はスイスにある小さな村、トループ村。最愛の夫に先立たれ、生きる意欲を持てずに毎日を漠然と過ごしている８０歳の女性・マルタ。そんなある日、彼女はふとしたきっかけから、若い頃に抱いた夢を思い出す。それは、自分でデザインして刺繍したランジェリーのお店を開くこと。彼女のことを心配していた友人たちもその夢を知り、応援してくれる。そして、夢に向かって動き出すマルタ。しかし、昔ながらの保守的な考え方が支配的な村では、マルタのささやかな夢は、破廉恥と非難されてしまう．．．。

邦題『マルタのやさしい刺繍』とかわいいおばあさんたちが並んだＤＶＤのジャケットだけ見ると、とある高齢の女性の素晴らしい刺繍が、殺伐とした現代社会の中で、さまざまな人々の心を和ませたり、癒したりする物語、という感じがしないでもないですが、実際の内容はもう少し過激。主人公マルタの作るものは刺繍とはいえ、ランジェリー、さらにマルタの暮らすコミュニティは昔ながらの保守的で閉鎖的ないわゆる”村”。その中で、彼女のランジェリーショップをオープンしたいという夢は多くの人から非難されてしまいます。それでも、一途に自分自身の人生を取り戻そうと闘い、それにつれて、輝きを増していくマルタの姿は見ていて応援したくなります。ただ、悪役的存在の人間の言動があまりにわかりやすかったり、マルタの刺繍作品の販売もインターネットでブレイクしたり、ちょっとご都合主義なのがご愛嬌。途中の友人の死もストーリー的に本当に必要だったか疑問も残ります。マルタと亡き夫のエピソードももっと知りたかったです。
と、ところどころ単純すぎたり、説明不足だったりするところもありますが、マルタを取り巻くお友達のキャラも楽しく、年齢に関係なく”夢をあきらめない”という心が、生きるうえでの大きな糧になるという、本作の趣旨には賛同できます。スイス映画と言うこともあって、雰囲気もちょっと変わっているところも面白い作品です。