国際情勢をチェックして相場を的確に予見、巨万の富を築いた青年、エリック・パッカー。美しい妻を持ち、誰もが羨む人生を送っていた。その立場ゆえに脅迫などのリスクに晒されるため、ハイテク装備で防御されたリムジンをオフィス代わりに暮らす日々。ところが、そんなあらゆるものを手に入れた資本主義の申し子を、不穏な運命待ち受けていた。その日、大統領のニューヨーク訪問を前に、街では大勢の市民がデモに繰り出し、床屋に向かったエリックのリムジンはなかなか目的地にたどり着けない。そんな中、人民元取引で壊滅的な損失を出したエリックの運命の歯車は大きく狂い始める...という物語。
『裸のランチ』(1991)、『イースタン・プロミス』(2007)のデヴィッド・クローネンバーグ監督が、アメリカ文学を代表する巨匠ドン・デリーロの同名小説を映画化した作品。金融界で時代の寵児となった青年の数奇な運命をサスペンス要素を交え、観念的に描いています。物語のほとんどがリムジンの中での会話という異色の展開。哲学的な台詞も多く、最初から最後までかなり難解です。ただ、完璧と思われた世界がバランスを失って崩壊する危うさ、脆さ、美学のようなものが伝わってくるのが興味深いです。ファンとしては、映像美だけでなく、脚本や登場人物にもっともっとクローネンバーグらしさが欲しかったですが。
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