【 コメント 】
ジェームズ・トバック監督、ハーヴェイ・カイテル主演の『マッド・フィンガーズ』(1978)をリメイクした作品です。舞台がニューヨークからパリになっています。監督は『キリング・タイム』(1987)や『リード・マイ・リップス』(2001)を手がけたジャック・オーディアール。主人公の不動産ブローカーを演じるのは、『ガッジョ・ディーロ』(1997)、『ルパン』(2004)などで、独特の存在感を見せたロマン・デュリス。
悪徳不動産ブローカーとして裏社会で生きる男トム。しかしながら彼の心の奥には、亡き母のようにピアニストの道を歩みたいという夢があった。ふとしたことから、オーディションのきっかけをつかんだトムは、その日から、知人に紹介された言葉の通じないアジア人女性のレッスンを受け始める。不動産ブローカーとピアニストを目指すという2つの世界で生きる彼に、現実は過酷な選択を突きつけてくるのだった...という物語。
冒頭、二人の男が向かい合い、一方が独白的に自らの状況を語り始めます。シチュエーションといい、カメラワークといい、フランシス・コッポラ監督の『ゴッドファーザー』(1972)みたいだなと思っていたら、その後は、主人公トムが、車で夜の街を流す場面。ミラーに映り込むぼやけたネオン。今度はマーチン・スコセッシ監督の『タクシードライバー』(1976)を髣髴させます。彼らへのオマージュが含まれているのでしょうか。
食うか食われるかの裏社会とピアニストという、表と裏の世界を行き来する様が、非常にスリルがあります。主人公トムはその二つの世界でそれぞれ要領よくやっているかというと全くそうではなく、父や友人との人間関係にも押しつぶされ、破滅に向かって激情的に生きています。それがまた切なくてかっこいい。従来のノワール作品であれば、このままトムが死んで終わりだと思いますが、本作では、ラストもひとひねりされています。デジタルロックの刹那的なBGMがマッチした、ハードボイルドなテイストの秀作。
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